JRA日本中央競馬会 日高育成牧場

2019-01-17

JRA日高育成牧場のあしはらです。

寒中お見舞い申し上げます

 年は明けて平成31年となりました。皆さん、どんな気持ちで新年を迎えたでしょうか。原稿を書いているこの日は、遠く日高山脈もきれいに見えるいい天気です。

Photo_3  何といっても今年は新元号となる年ですよね。何でも4月に発表だとか・・・。どんな名前になるのか楽しみじゃありませんか?

 私の祖父は1897年(明治30年)生まれ。物静かな祖父で、小さいころ、そんなに多く機会はありませんでしたが、自身の戦争体験の話を聞かされたことがありました。その内容ですが、飛行機の上に飛行機が位置して、そこから石を落として撃沈させたなど、父母や学校から聞かされた太平洋戦争の話と比べると、どうもイメージが違うものでした。その理由は後になってからわかりました。日露戦争(1904年)より前に生まれた人の話ですから、第一次世界大戦(1914年)の話だったのですね。もう今となっては、明治生まれの人の話を聞くのも難しくなってきましたが、あの時もっといろいろ聞いておけばよかったなあと思います。子供の頃は、明治、大正生まれの祖父母と過ごし、今は昭和生まれの妻と平成生まれの子供と過ごしている。そして、もうすぐ5つ目の時代と関わることになる・・・。そう考えると、何か不思議な気持ちになります。

 近年はいろいろな自然災害が起こり、少子高齢化が進むなど、時として先の見通せない暗い気持ちになることもありますが、せっかく元号も変わるのですから、気持ちを新たに、希望が持てる時代になっていってほしいと願います。私たちが携わる馬の世界に目を向けると、生産地では市場が活気づいていい感じですし、また競馬では昨年は三冠牝馬が誕生するなど明るい話題が多く、大いに盛り上がりを見せましたよね。そんな中、日高育成牧場も、馬を盛り上げるべく、こつこつと育成や生産に関する様々なことに積極的に取り組んでいきたいと思っています。読者の皆さんの中でも、私たちと一緒に職場で仕事をする未来の仲間がいるかも知れませんね!なんか、いろいろ考えるとわくわくしますが、私もこのブログを通して、皆さんに情報発信し、張り切ってやっていきますので、お暇な時間にのぞいてやってください。今年もよろしくお願いいたします。

生産地疾病等調査研究

 昨年の12月になりますが、日高の馬の獣医師が集まって、生産地疾病に関する打ち合わせを行いました。3年を周期に生産地で問題になっている疾病や感染症に関するテーマを考えてJRA、生産地、家畜保健衛生所の獣医師が一緒になって調査研究するものです。多く取り上げられるものとしては、繁殖に関する疾病や子馬特有の疾病が多く、感染症では、流産を引き起こす原因となる馬鼻肺炎や子馬の下痢の原因となるロタウイルス感染症など・・・。平成31年新元号元年からは新たな3年間のテーマに沿った調査研究が始まります。機会を見つけてあらためて紹介できればと思います。

荒馬の轡は前から

 新年1回目と言うことで、何にしようかと迷いましたが、馬に関係することわざを絡めながらお話してみたいと思います。

 どうしても上手くいかない。思うように乗れない。言うことを聞いてくれない・・・。

 馬乗りに限った話ではないですが、生きていれば困難の一つや二つ、いやそれ以上にぶつかって戸惑うこともあるはずです。私もいろいろな経験をしてきました。くよくよしても仕方がないので、たいていのことは何とかなると思って少しは頑張ってみるものの、挫折して人に頼ったり、ごまかしたりすることもあったと思います。旅の恥はかきすて、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥なんていいますけど、本当にそのとおりで、恥ずかしいと思って逃げないで、いったんそこで恥をかいて、反省して、あらためて真正面からぶち当たればよかったんです。終わったことだから気軽に書いているけど、現場ではこの一歩がなかなか踏み出せないんですよね。暴れ馬がいたとして、制しようと無理なことをしないで、まずは口に轡をかませてから制すれば大人しくなるんですよね。時にこのことわざを思い出して、自分の行動を見つめなおしてみましょう。

弱馬道を急ぐ

 私のように、あまり能力の高くない人間は、困難にぶち当たったとき、何とか早く解決できないかとあせるものです。新人の時にはわからないと許されても、経験を重ねた立場になってくると、わからないでは済まされないこともあります。

 馬はちょっとしたことで発熱します。原因はいろいろです。獣医師はまず聴診器で心臓の音を聞くことが多いでしょう。次に何処が悪いのかを探るために、いろいろな部分を触るでしょう。風邪かな?疝痛かな?・・・いろいろな可能性があるので、頭の中を様々な診断病名が駆け巡ります。そして、獣医師の正確な判断を誤らせる敵が現れます。

 先入観・・・。

 知識をたくさん持つことは大切で、いろいろな面から推測して正確な診断をすることができます。しかし、変に余裕を見せたり、あせったりすることで、「こうなら、こうであるに違いない」という先入観が邪魔をして誤った診断をすることがあるのです。私もいろいろ恥ずかしい失敗をした経験があるのですが、やはり、すぐには診断がつかなくて、あせって失敗することが多かったですね。

 発熱は、感染症にかかって呼吸器に炎症が起こったときに出るというイメージが強いと思います。しかし、どこかが痛くても熱は出ます。残念なことに馬は「痛い」とは言ってくれませんので、こちらが気づかないといけない。

 外見じゃわからない、蹄の内部の炎症だった。

 普段はあまり触ることがない乳房の炎症だった。

 胸を打診して反応があったが、肺炎ではなく骨盤の骨折が痛くて反応していた。

 あせって、早く結果を求めようと、呼吸器の疾患と決めつけて、結論を出そうとあせった罰が当たった例です。最初に歩かせてみれば、全身をよく観察して診断を下していれば落とし穴にはまることもなかったよなと大いに反省した経験でした。皆さんも私と似たような経験をしそうになったら、このことわざを思い浮かべてください。

できないことはできない・・・ですが

 人によっては、すぐ構えてしまう、ためらってしまう、怯んでしまう人・・・少なくないでしょう。私もその一人です。口では簡単に言うけど、できないものはできない・・・。確かにそうでしょう。でも全部できなきゃ、何もかもがだめ・・・と言うことでもないと思います。10回に、いや100回に一回でいいから、勇気を出して思い切ったことをやってみましょう。たとえ結果が出なくても、何らかの収穫はあるはずです。なんだか、自分に言い聞かせているような感じですけど、そんな人はきっと世の中にたくさんいるから、自分だけ・・・と思わないでくださいね。お互い歯を食いしばって新しい時代を生きていこうではありませんか・・・ちょっと、大袈裟ですかね。馬に乗れない私から見れば、馬に乗れる、馬に乗ろうとする皆さんはたいした者ですよ!さあ新しい時代です。張り切っていきましょう!

 今回もお付き合いありがとうございました!

2018-12-19

JRA日高育成牧場のあしはらです。

馬とともに過ごした平成

 早いもので今年も終わりですね。来年は平成最後の年となり新しい時代を迎えます。

 私が獣医になると決意したのが昭和56年。獣医学科に進学できたのが昭和59年。そして卒業して馬の獣医師としてスタートを切ったのが平成2年。来年は平成31年新元号元年ですから、私の平成は「馬とともに過ごした時代」といえます。今、このブログを読んでいる方にとっては、きっと次の時代が、「馬とともに過ごす時代」となるんでしょうね。

 そして、日高育成牧場の来年明け2歳となる育成馬にとっても、新しい時代が、彼らが競馬での活躍する場となるんですね。

Photo  おそらく時代が変わっても、世界情勢が大きく変わるわけでもなく、日本も今と変わらず、いろいろなことに心配を抱えながら時が過ぎていくのでしょうけど、私たちは私たちなりに、馬と触れ合いながら、いい時代をすごしていけばいいのです。とにもかくにも、来年もよろしくお願いいたします!

浦河獣医師会講習会

 去る12月8日に浦河獣医師会が主催する講習会が行われましたね。行かれた方・・・いらっしゃいますか?今回は「アメリカの馬産」と題して、日高育成牧場の獣医師が講師になり、昨年研修で学んできた内容についての報告でした。アメリカ、ケンタッキー州における繁殖牝馬の管理、分娩と診断、当歳馬の管理、離乳、種付け・・・などを中心に、多岐にわたるものでしたね。生産者、獣医師など多くの方に集まってもらい、興味深く聞いていただくことができました。残念ながら来ることができなかった方は、身近に聞いた人が入れば情報を仕入れていただければと思います。そして自分の牧場との違いを感じながら、今後に役立てていただければと思います。

忍耐と駆け引き

 「年をとると怒りっぽくなる」

 最近は本当に身にしみて感じることです・・・。今まではそんなことはなかったのに、些細なことで怒りを感じることがある。少し前なら我慢できたのに、すぐに口に出してしまう。いけないなあ、直さなきゃだめだよなあ・・・そんなことの繰り返しです。では馬は?この忍耐力について考えたとき・・・どうでしょうか?時として彼らの我慢強さに驚かされることがある・・・なんて経験をしている方もいるのではないでしょう。

 獣医師の場合ですが、多くは、悲しいかな、馬たちから見れば単なる「嫌われ者」でしかありません。もちろん、何もしないで近づけば、他の人と同じように接してくれますが、仕事となれば、検査や治療と称して、彼らにとって、それはそれは嫌なことばかりする厄介者です。厩舎に行って、馬房の前にくると、大半はお尻を向けます。なんと寂しいことか・・・。牧場スタッフにお願いしてつかまえてもらい、やっと触ることができる・・・そのときの従順さを目の当たりにすると、うらやましいなあと思ったりしてね。で、治療が始まると注射を打ったり、診断のためとはいえ、関節を曲げられたり、痛い部分を圧迫されたりで、辛そうにします・・・が、どうでしょう。彼らは結構長い時間、我慢してくれますよ。偉いです。治療が終わると、「ふ~!」と息を吐いて、やれやれ、なんて顔をするやつもいるので、「我慢してくれてありがとう」とお礼を言いたくなることもしばしば・・・。日高育成牧場では、今のところ調教が順調に進んでいますが、その様々な過程の中で、馬とコミュニケーションを上手くとりながら、馬に我慢してもらう場面も多かれ少なかれあります。彼らは納得した上で人間の指示に従い、我慢し続けて、やがては、どんな人の指示にも従ってくれるようになるまで成長してくれます。自分たちの方が大きいのだから、「嫌だ」と拒絶して暴れれば、辛い思いをすることもないのに・・・と単純に思うのですが、彼らはとにかく我慢をする・・・その忍耐力には脱帽なんですね・・・。

初動は大切

 写真は当歳を馬運車に乗せる練習をしている風景の1コマです。

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 血統が良く優秀な繁殖牝馬に良血の種牡馬をつけて生まれてきた子馬で、馴致も調教もしっかりできて、能力が高くても、馬運車に乗ることができなければ目的の調教場、競馬場に行くことができないし、そもそも競馬に出走することすらできません。馬運車馴致は、そういう意味で、極めて重要な練習と言えます。撮影したこの日は、飼養放牧管理の関係で、馬運車で放牧地を移動する必要があったため、慣らしの練習をしているところでした。素直に乗るもの、少しずつ様子を見ながら乗るもの、馬運車自体を怖がりなかなか近寄らないものなど様々です。それぞれの性格を汲み取りながら、馬が嫌がらないように誘導します。どんな馴致でも言えることですが、一つやり方を間違うと、その担当者の言うことを聞かないどころか、人間自体の言うことを聞かなくなったりします。競走馬としての生活をしていくからには、いろいろな人と係わっていくことになるわけですから、この人の言うことは聞くけど、他の人の言うことは聞かない・・・では困ったことになります。よく、馴致育成はおなかの中から始まる・・・と言う人もいますが、とにかく日々積み重ねが大切だということなんだという意味も含まれていると思います。

ひと芝居うつ

 人でも会社主催の健康診断があると思います。そこで必ず実施するのが採血ですね。馬も同じで、一斉の定期健康診断があります。トレセンには東西合わせて4000頭の馬がいるわけですから、中には枠場に入れても注射できない、枠場にすら入らず注射させないなど個性的な馬が何頭かいるものです。まさに獣医泣かせの馬ですが、ではこれらの馬は厩舎でも言うことを聞かないかといえば、そうでもない。むしろ逆で、大人しかったりするんですが、そういう馬は大概頭が良いんだと思いますね。人の心を先読みする能力が高いんだと思います。まだ、私が2、3年目のころだったか、ある厩舎にそんな頭の良い馬がいて、厩舎と協力して大芝居を打ったことがありました。厩舎の人には全員出てもらって通常どおりの作業をしてもらう。獣医は2人で、ファンを装い普段着でその馬の隣の馬房でその馬の顔をなでたりする。担当厩務員には飼葉をつける作業をしてもらい、馬が飼い葉桶に近づく隙を狙って、採血。馬も驚きを隠せない表情で、やられた~と思ったかどうかはわかりませんが、そのときだけは観念して採らせてくれました(その次はまただめだったんですけど・・・)馬との駆け引きは奥が深いなあ、とそのときしみじみ感じました。

 いつものように個人的な見解ですが、大人しい馬ほど、

 「人間ごときに素直になれるか!スキあらば人を出し抜いてやろう」と思っているんでしょうかね?なんでもさせてくれる馬は

 「お前が頼りないから、言うこと聞いている振りをしてあげているんだよ」なんて、上から目線だったりするんですかね?

 馬とどんな関係を築けるかは、とにかくあなたの腕次第。自分の理想の馬をつくるため、辛抱強い馬を相手に、いろいろな機会を作って触れ合いながら、駆け引きしながら勉強するといいと思います。

 今回もお付き合いありがとうございました。また来年!!

2018-11-03

JRA日高育成牧場のあしはらです。

馴致と馬場入り

 早いもので11月・・・不安定な天候が続くこのごろですが、この原稿を書いている今日は穏やかな秋晴れです。

 さて、本格的な馬場入りが始まった日高育成牧場の育成馬たち・・・。このブログがアップされるのは、ちょうど1ヶ月が経とうとしているところだと思います。厩舎単位での馬場入りをするようになったのが10月半ばでした。出だしの印象は、とてもスムーズだったと思います。担当者によれば、馴致騎乗の技術が上がっているだけでなく、年々、各牧場の当歳時からの管理技術が向上しているせいか、順調に進んでいる・・・とのことでした。自分が管理育成してきた馬がどのくらいの値で売られ、その後の競走成績はどうだったか・・・はっきりと結果が出る世界なので、生産する側は、毎年のことを振り返って反省し、来年に向けてどう改善していくか・・・の繰り返しです。他の牧場の管理方法も意識して横目で見ながら、また時には意見をくみ交わしながら、全体のレベルが上がっていくものだと思います。日高育成牧場もいろいろ試行錯誤を重ねながら、技術向上のために頑張っていますので、育成ブログなどでその様子を見ていただければと思います。

家畜保健衛生業績発表会

 研究関係ですが、先月の下旬に、全道の家畜保健衛生所の獣医さんが札幌に集まって、業績発表会が行われました。家畜でよく問題になる感染症の発生状況の報告、大流行が起こった場合の対処方法についての報告、感染症を未然に防ぐための対策方法・・・などについて報告するものです。北海道では、飼育頭数の多い牛や鶏に関する報告が多くなりますが、日高からは馬の流産に関する発表がされていました。

 また、講演会では「薬剤耐性を考える」と題して4名のパネラーにより、抗生物質が効きにくい細菌にどう立ち向かうかについての発表が行われました。薬物を使用する側の獣医師が、病気の動物を看護する側の飼養管理者が、正しい知識を持って対応しないと、薬剤耐性菌が増加して、感染症の蔓延で思わぬ事態となりかねないという内容のお話でした。とても重要な問題ですから、機会があれば、最寄りの家畜保健衛生所の獣医さんとディスカッションして勉強してみてください。

生産育成技術講座と競走馬に関する調査研究発表会・日本ウマ科学会学術集会

 年末恒例のJRA主催、共催の行事が今年も行われます。浦河、門別では、今月19,20日に生産育成技術講座が、また来月3,4日には、東京両国にて、研究発表会・日本ウマ科学会学術集会が開催されます。馬取扱いの方も気軽に参加できるものですから、是非足を運んでみてください。詳しくはJRAのHPなどで検索してみてくださいね。よろしくお願いします。

小さくても顔がある

 馬を扱う仕事をしていると、時に感染症の問題にぶつかることがあると思います。人には人特有の、馬には馬特有の感染症があります。また、人にもかかるし、馬にもかかる共通の感染症もあります。一口に感染症と称しますが、細菌とかウイルスとかに種類が分けられ、様々なタイプのものがあって、それはそれは小さすぎて肉眼では見ることのできない生物が、人や馬の体内に入り込んで悪さをするものです。私たちから見れば、どれもこれも同じに思えてしまうのですが、仮に人のように表現するとすれば、性格は様々で、住む環境も好みが分かれるし、いいやつもいれば、悪いやつもいて、いろいろな面で特徴が異なります。私たちの知る身近な感染症を一つ挙げるとすれば、馬でも人でもやはりインフルエンザでしょうか・・・。人では毎年流行しますね。馬でも日本ではこれまで2回の大流行を経験し、競馬が中止に追い込まれる・・・なんてこともありました。また馬の場合、生産地では馬鼻肺炎といって、流産を起こす厄介な感染症が有名ですね。これらの感染症の詳しいお話は別な機会で語るとして、今回は「独特な形、特徴」という点に着目したいと思います。今回は形や特徴がとっても個性的な・・・「破傷風(はしょうふう)」という感染症の菌を主人公にして話をすることにしましょうか・・・。

 この破傷風という病気ですが、皆さん聞いたことはありますか?

 人にも馬にも感染する細菌で、比較的深めの傷口などから、菌で汚染された土壌などを介して感染し、一定の条件で菌が増えると毒素を産生し神経症状を起こすものです。

 さて、この破傷風菌。どんな「顔」(形ですね・・・)をしているのでしょうか?

Photo  皆さんは細菌の形は?と言われて、頭の中で想像する時、どんな形のイメージを持つでしょうか・・・。丸?四角?楕円形・・・多くの人はそんな形を思い浮かべるでしょうか。しかし模式図を見てもらうと驚くと思いますが、破傷風菌は、こん棒とか太鼓のバチのような形をしています。面白い形ですよね。で、注目してもらいたいのが、先っちょに付いている丸い種のようなもの。これは専門用語で「芽胞(がほう)」と呼ばれるものです。ここでは便宜的に卵のようなものだと考えてください。普通は感染症を予防するというと、しっかり手を洗う、消毒殺菌はしっかりと、なんていいますが、もちろんしっかりやっていれば感染症は十分に予防できます。先ほど述べたように、例えば手足に新鮮な深めの刺し傷があって、破傷風菌が潜んでいる土壌なんかに長時間手足を入れて作業など、幾つかの条件が重なると感染することがあります。破傷風菌は「土壌細菌」などと称されることもあるのですが、その理由は、この「芽胞」の生存力が強いことにあります。ほとんどの細菌は、適切な滅菌用の薬剤の使用や一定の以上の高さでの煮沸をすることなどで死滅するのですが、破傷風の場合は、菌体が死滅しても、「芽胞」が土壌中で生き残ることがあるんです。そして時間が経つと再び菌体になるのです。したがって、多かれ少なかれ、全国どこにでも潜んでいると言われている秘密はこんなところにあったのです。

細菌やウイルスの特徴を知ることが予防につながる

 今回は「皆さんに細菌の怖さを知ってもらう」のが目的ではなく、

「皆さんにわかりやすく、細菌にもいろいろなタイプがあることを知ってもらう」ことを目的に、破傷風菌を取り上げました。

 感染症の予防は、正しい知識を持たないで、人の噂話に惑わされて、勝手な解釈で闇雲にやっても効果がありません。今回の破傷風では、

「傷口が汚染された土壌に触れなければ大丈夫」

という基本的なことを知り、その対策方法を正しく取りさえすれば怖くないことがわかったと思います。このように細菌やウイルスには、それぞれ顔と特徴があるのです。感染力が強くて手ごわいのもいれば、適切な消毒、殺菌、滅菌やっておけば簡単にやっつけることのできるものもいます。ちゃんとやっているのに上手くいかないなんてこともあるでしょう。馬取扱いの皆さんも積極的に情報を得て、正しい知識を習得し、感染症対策を身に着けることが大切です。わからないときは、周囲と相談しながら、小さな敵の正体を暴いてください。必要以上に怖がらないで立ち向かっていきましょう。

 (毎度のことながら、私独自の見解も多く含まれているので、感染症に詳しい獣医師の情報を必ず確認願います。)

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-10-04

JRA日高育成牧場のあしはらです。

胆振東部地震

 あの9.6から1ヶ月が経ちました。馬産地に近い北海道の厚真町を中心にして発生した地震は私たちを驚かせました。被災された方は、辛いことを抱えながら過ごしていることと想像しますが、協力を仰ぎながら、様々な障害を乗り越えているものと信じています。不安はしばらく続き、時には泣きたくなることもあるかもしれませんが、どうか肩に力を入れすぎず、周囲の励ましをうけながら、立ち直っていってほしいと思います。もちろん、悠長なことは言っていられないという方もいると思いますので、無責任に物はいえませんが、できるだけ早く、元どおりの生活に戻ることを願うばかりです・・・。

オータムセール

 暑かった夏もどこへ行ったのか、浦河もすっかり秋色・・・どころか冬がもうすぐ始まるよ、といった感じの冷たい風が吹くこの頃です。そんな中、好調な1歳セールが続いていましたが、10月1~3日に開催されたオータムセールも盛況で終了しました。10月中旬にはJRA育成馬も全頭そろっての馴致調教がスタートです。とにかく、順調に行くことを願うばかりです。育成の様子は、JRAのブログにも掲載されますので、お手すきのときに見ていただければと思います。

秋の町民乗馬大会、学会

 先月末になりますが、毎年恒例の浦河町民馬術大会が開催されました。障害飛越競技、部半運動、ジムカーナ競技、チーム対抗競技など、大人から子供まで幅広い年齢層の参加者が、和気藹々とした雰囲気の中で行われる乗馬大会です。終了後も表彰式、焼肉大会で盛り上がっていましたよ。

 学会関係ですが、こちらも先月末に札幌で開催された北海道獣医師会主催の学会に参加してきました。熱の入った質疑応答の場面もあり、いろいろ勉強になりました。馬産地の獣医師もたくさん参加していましたので、どんな演題があったのかは、馴染みの獣医さんに効いてみるといいと思います。

温故知新

 私がJRAに入会したのは、ちょうど昭和と平成の境目でした。今年は平成30年で来年からは新元号になるのですから、あっという間に時間が過ぎるものだなあと感じます。馬取扱い、獣医、装蹄師・・・馬の世界でも、いろいろな技術職と呼ばれる職種がありますが、いろいろな形で洗練された「ワザ」が継承されていくものですよね。一方で、時代の変化の中でいつの間にか消えていくものもあると思います。私は獣医職ですが、例えば皆さんにも身近で整形外科診療に欠かせない「レントゲン診断」一つをとっても、私が新人の頃は手現像で、現像液、定着液の調整をして暗室にこもって赤いライトを頼りに写り具合を観察しながら仕上げるなんていう面倒な作業がありましたが、今では撮影した瞬時に手元のスマホやパソコンに画面が写るのですから・・・。時代の流れについていくのも大変です。

 競走馬や育成馬の馬取扱いの人の場合、いろいろな病気の治療がある中で、筋肉痛の治療や疝痛の治療で獣医師とかかわる機会が多いと思います。私と年齢的に近い(50代・・・?)方ならピンと来ると思いますが、臨床現場にいた頃、これらの治療で欠かせないものの一つが(電気)針治療でした。人と同じように、馬にも様々な疾病に効果があるとされる体のツボがあって、馬も症状に応じて針治療をしたものでした。皆さんの中で韓国ドラマの時代劇「馬医」を見たことのある方・・・いるのではないでしょうか。その中でも、針治療の場面がたくさん出てきます。もちろん今でも使われているものの、きっと私が診療をしていたころに比べると、実際に針を刺す治療は減っているかもしれません。しかしながら、今後すたれてしまうのか、再度見直されて流行るのかは不透明です。

 針による治療方法の良し悪しを議論するのがここでの目的ではありません。昔を振り返るとこんな治療法が盛んに行われていて、その治療効果について考えてみたとき、こんな利点もあったのかと振り返る・・・また、次の世代の人に語り継ぐのも大事ことなのではないかと・・・そう思い針を取り上げました。今回は、ごく簡単にですが、疝痛の針治療を例に挙げて少しお話してみましょう。今でも専門で治療されている方もいらっしゃいますし、いろいろなやり方があると思いますので、いつもどおり、私独自のやり方、解釈であることをご了承下さいね。

Photo  写真を参考にしながら・・・まずは万能ツボ、百会(ひゃくえ)を探しましょう。馬の背中の中心、正中線と呼びましょうか、その線を、骨の感触を確かめながら背中から尾に向かって指で押しながら少しずつ後ろの進んでいってみましょう。ちょうど真横が腰角になるあたりまで進んでいくと、急にやわらかくへこむ所があるはずです。そこが百会になります。百会は動物によってその位置は異なり、例えば人は頭にあるようです。様々な治療に有効なツボとも言われています。まずはそこに1本刺すとしましょう。

 次に通腸(つうちょう)です。いかにも疝痛に効果のありそうなネーミングですね。通腸は左右に2箇所あります。一つ目は腰角の骨だと一番感じる部分と、背中の正中線を垂直に結んだ線の中間にあります。そして二つ目は、腰角から地面と水平に前方に辿って、肋骨の骨を感じるところに達したら、そのポイントと正中線を垂直に結んだ中間にあります。通腸は一、二と称して左右で4ヶ所ありますから、百会との合計5ヶ所のツボに針を刺して、お灸をしたり、電気治療で刺激したりすることで、腸の動きを促すことができるとされています。文章で書くとすごく難しく感じますが、写真を参考にしながら、なんとなくイメージしてみてください。昔の馬の診療所では電気治療と同時にお灸もしていたので、治療室内が煙で充満していたのをよく覚えていますね。懐かしいです。

 針を刺すときは位置だけ確認して闇雲に刺すのではなく、注意深く「しんかん」を確かめながら進めます。ツボに入っていれば、皮膚がぴくぴくっと反応するので、その感触を最低でも2回見つけながら、探りながら針を進めます。ツボに入っているときは、電気治療で針がピクピクッと良く反応し、外している時との動きの違いがよくわかりますし、何より馬が気持ちよさそうな顔をします。そのほかに私の師匠は、分水(ぶんすい)と言って鼻先にあるツボに刺したり、通腸の近くにある関元愈(かんげんゆ)というツボに刺したりして治療していました。私はそこまでやったことはありませんが、いずれも疝痛に効果のあるツボと言われています。まずはツボを刺激して、浣腸や輸液などの治療を平行してやっていました。

 馬取扱いと針治療は、直接は関係ないですが、筋肉の位置や働き、臓器の位置を覚えるのと同時に、ツボの知識も頭に入れてことは決して損ではないと思います。ベテランの獣医さんをつかまえて、いろいろ教わるのも悪くないでしょう。皆さんの身近なことで言えば、馬装具が挙げられるでしょうか。どんどん進化して行っていると思いますが、きっかけがあれば、古い馬装具について調べてみて、どんな利点があって使われていたかを知るのも悪くありません。JRAでは、東京府中や横浜根岸に博物館もあるので、近くの方は訪ねてみてはいかがでしょうか?

 「ふるきをたずねてあたらしきをしる」ですね・・・。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-09-01

JRA日高育成牧場のあしはらです。

育成馬入厩

 市場は10月のオータムセールを残すだけとなりました。そんな中、本年度のJRAにおける1歳馬の購買は予定どおり進んでおり、日高および宮崎育成牧場では、サマーセールまでに購買した育成馬たちが入厩しました。日高入厩組は8月30日に、また宮崎入厩組は8月29日に北海道を出発し、8月31日に到着したようです。早速プレ馴致から取り組んでいく予定で、それぞれの馬のコンディションをよく観察しながら実施していくことになります。ブラッシング、パッティング、馬房内回転、号令、ストラップ馴致、引き運動などなど・・・。順調に行くもの、足踏みするもの・・・いろいろありそうです。9月から約7ヵ月半、長いようで短い期間ですが、4月のブリーズアップセールに向けてそれぞれの育成馬がどんな風に成長していくのか楽しみです。詳細はJRA発信の育成馬ブログなどで見ることができると思うので、注目していただければと思います。

離乳

 一方、繁殖関係ですが、お母さんと子馬のお別れの季節を迎えました。離乳は概ね生まれてから6ヶ月前後、または体重が200kg前後に達したことを契機に実施しますが、そこは牧場の考え方もいろいろです。日高育成牧場では、上記を基準として、今年は8月に3回に分けて実施しました。夏は研修生がたくさん訪れるため、できるだけ多くの人に離乳の現場体験をさせるという事情もあります。その方法はいろいろですが、離乳が近づいたら、まず、リードホースの役目を担うベテランの雌馬を入れて慣らした後に、早く生まれた順に、放牧中に母馬を連れ去る方法をとっています。

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 離乳直後は、母馬、子馬ともに不安に陥りやすいです。母馬は乳房が張って痛みがあったり、子馬がいない不安があったりで熱を出したりします。また食欲も極端に落ちることがあるので、妊娠中の馬は注意が必要。子馬も不安で、必要以上に放牧地を駆け回ったり、食欲が落ちて体重が激減したりすることがあるので、注意して観察する必要があります。

 母親に甘えていた子馬も、これからは若馬と呼ばれるようになります。大人に向けての第一歩ですね。馬取扱い初心者の皆さんが研修を終えて、指導者の元を離れて独り立ちするのと同じですね。厳しい冬を乗り越えて、たくましく成長してくれることを願うばかりです。

首を長~くして考えてみよう

 今回は馬の長い首に関連して、いろいろ考えることにします。キリンほどではありませんが、馬もそれなりに長いですよね。そんな長い首だからこそ、気になることって・・・ありませんか?ごく簡単な内容で申し訳ないですが、筋肉のこと、呼吸のこと、そして食べることに関する気になること・・・の3点に絞って少し書いてみますね。へたくそで恐縮ですが、写真に添えた模式図も参考にしてください。要点は心得ているつもりです・・・(汗)。

意外に重い頭と長い首

 アスリートである馬の診療をするとき、獣医師は「触診」をとても大切にします。同じ馬でも競走馬、乗馬など用途の違いをふまえて、頭の付け根から尻尾の付け根まで、順番に触っていきます。で、具体的に何処が筋肉痛になるのかなんですが・・・たとえばお尻。解剖学用語で言うと中臀筋(ちゅうでんきん)、半腱・半膜様筋(はんけん・はんまくようきん)という筋肉があって、そこがよく痛くなります。(俗に後ろ側の分を指して「べら」が痛くなる、なんて表現する人もいますね。)また、背中は特に飛越で負担がかかりやすい障害競走の競走馬で痛くなることが多いです。押すと目がカッと開いて、キュッと筋肉を硬くして痛そうにしますよ。そして、首。一番痛みを発しやすいのは上腕頭筋(じょうわんとうきん)という筋肉です。(「ハッキン」が痛くなる、と言う人もいますね。)疲労が蓄積すると、ちょっとつかんだだけで痛がります。首はとても長いので、頭の付け根から肩先のところまで、順番に丁寧に、押したりつかんだりして感触や反応を確かめますが、意外と頭の付け根が激しく痛くなることが多いです(模式図を参照)。

 皆さんの中で自身の頭の重さってどのくらいだろうと考えたことがある人はいるでしょうか?頭って結構重いんですよ。なので、あの長い首で重い頭を支えるちょうど付け根の部分に負担がかかるんですね。走れば上下運動も加わりますからなお更です。また後肢は「股関節」(骨と骨)で体と肢がつながっているのは人と同じですが、前肢は人のように「肩関節」(骨と骨)ではなく、筋肉だけでつながっているのが馬の特徴で負担も大きいです。馬を管理する上で、この2点を常に頭に入れておくといいと思います。

 実際に何度も触ってみるとわかるようになるのですが、馬は「痛い」とは言ってくれないので、押したりつかんだりしたときの硬さで判断することができます。先に書いたように、痛いとキュッと硬くします。その感触を自分の指に教え込むのは価値があると思いますよ。そうそう、痛いところを急に刺激すると、馬は悲鳴を上げる代わりに怒って蹴るので十分注意してください。また時々、触るのが嫌だとか、痛いふりをする馬もいるので、その辺も見破ることができればいいですね。そんなときは、こちらも痛くないところから触って、裏をかくのです。騙されないようにしましょう。

Photo_2 空気の通り道と長い首

 頭は重いだけでなく細長いのも特徴です(馬面ですね)。ということは、首も長いわけですから、物を食べたときや、息を吸うとき、食べ物や空気が胃や肺にたどり着くまでの距離も長いということになります。

 皆さん小さいころ一度は鼻血を出したこと・・・ありますよね。多くの場合、鼻の周囲への刺激で、血管が傷ついて血が出ることが多いと思います。もちろん馬でも同じようなことはありますが、まれに調教中や競走中に、比較的量の多い出血をみることがあります。

 人では、とりあえずティッシュを鼻の穴につめて、上のほうを見ながらじっとして、「まあ大丈夫かな」などとつぶやきつつ、安静にして様子を見ることが多いかも。ところが馬の場合は肺から出ていることがあります。ここでちょっと考えてほしいことが・・・。鼻の穴から頭と首の付け根にある喉の部分までが約40cm。そこから気管となり、肺の入り口までの距離は、馬の首の長さぐらいありますから、鼻先から通算すると、1m30~50cmくらいにはなりそうです。そんな奥で出血した血液を私たちは馬の「鼻血」としてみているのです。馬にとっては大変な出来事なので安易に考えないことです。そんな長い空気の道は、直接外気と触れ合っているので、何かの拍子で感染を起こすことも・・・。また、気管と肺の境目が少し低くなっていて、そこの部分に細菌がたまりやすいとも言われています。呼吸器の病気を起こしやすい馬は、馬房にいて牧草を与えるときは、吊るさず地面に置くことで、首を下げる機会を多くして、気管の細菌がたまりやすい部分が底になる時間を少なくするといい、なんていう人もいます。こうして考えると、解剖学的な知識っていうのも、とても重要なんだなと思いますよね。

食べ物の通り道と長い首

 おなかがすいたとき、水やお茶を飲まずにおにぎりに夢中になってがっつくと起こるのが「のどづまり」ですね。人では胸をたたきながら慌てて水を飲んで「ああ、苦しかった」なんていって収まりますが、馬もこの「のどづまり」があるんですね。首が長い分食道も長くなっているので、慌てて食べたときに発生する確率は人より高いかもしれません。何も食べない時間が長ければ長いほど起こりやすいですから、特に競馬の直後、激しい調教の直後などは、水を十分に飲ませてから、少しずつ牧草や飼葉を与えるようにしましょう。私も何度も治療の経験がありますが、食道専用のホースを鼻から送り込み、首をたたきながら、口で吸ったり、水を送り込んだりを繰り返して、大変な思いをしなければなりません。注意して管理するように心がけましょう。

 病気については、機会があればまた触れるとして、首が長いからこその特徴・・・いろいろありましたね。このように馬の体の特徴に興味を持って観察すると、いろいろな疑問がわいてくると思います。今回は首をターゲットにしましたが、他にも気になること、もっと詳しく知りたいことあると思います。そんなときは、なじみの獣医さんと話してみてください。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-08-09

JRA日高育成牧場のあしはらです。

セール・札幌開催

 7月前半は、ぐずついた天気が続いた北海道。そして後半はむしむしした感じの日が続きましたが、8月に入りようやく落ち着いてきた感じ・・・。しかしながら、西日本その他の地域での大雨は甚大な被害でした。その後も気温40度に達する酷暑・・・。復旧作業も大変そうで、この先、日本はどうなるかと心配になる今日この頃です・・・。そんななか、この原稿を書いている今日は、久しぶりにからっとして丁度いい天気です。離乳が近づく子馬たちも元気に過ごしています。また、先月行われたセールは好成績で無事に終了しました。今月はサマーセールが行われます。昨年と少し変わったところがあって、5日間の初日はサマープレミアムセールと称して実施されますね。どんな結果になるのか今から楽しみです。競馬は函館が終了し、札幌開催となっています。毎年有力馬の集まる札幌記念も楽しみですが、やはり2歳馬の戦いぶりが気になるところ・・・。北海道の夏は短いので、皆さんも存分に楽しんでくださいね。

サマーセミナー・装蹄研修

 7月後半から8月は恒例の学生研修です。将来、馬の獣医師を夢見る獣医大学の学生や装蹄師を目指す学校の生徒が研修に来ています。

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Photo_2  北海道以外の地域では、勉強に必要な馬を確保することが難しい所も多いですが、参加しやすいように夏休み期間に開催して、全国各地から北海道浦河に来てもらって研修を実施しています。馬に対する情熱は、馬取扱いの仕事を目指す皆さんと一緒で高いです。同世代の獣医師、装蹄師、栄養学の専門家などと知り合うことも重要だと思うので、何かの機会でチャンスがあれば話をしてみるのもいいかも・・・。大事な馬を管理する上で、いろいろな情報や技術を習得できると思います。私も、機会があれば学生諸君に、いろいろ教えてあげたいと思っています。

貴重な機会こそ大切に

とても珍しいことが起こったとき、

「それはたまたまだから」

「時々起こることだけど、普段はほとんどないから気にすることないよ」

と言う人もいれば、

「いい経験をしたね」

「めったにないことだからよく覚えておくといいよ」

なんて、言う人もいます。

 皆さんは馬を扱うのが仕事ですから、これまで受け継がれてきた技術を身につけてきて仕事をしているわけですが、時として一般的な理論にそぐわない馬に遭遇して、うまく扱えない、乗れないなどの壁にぶち当たるかもしれません。それをたまたまだと受け流すのか、貴重な体験と受け止めて記憶にとどめておくのかは人それぞれです。

 私は獣医としての経験しかないので、その関連の話しかできなくて申し訳ないのですが、若いとき、競走馬の麻酔師だった頃の話をすることにします。馬取扱いに直接結びつく話にはなりませんが、とりあえず読んでいただき、何かのきっかけぐらいになってくれれば・・・と思います。

 私はトレセンの現場にいた頃・・・一般診療や競馬開催とは別に馬の麻酔を担当していました。例えば骨折や疝痛でどうしても手術が必要になったときに、その馬に安全に麻酔をかけて手術のサポートをするのが仕事でした。薬を体内に入れて、手術中に馬に痛みを感じさせないように眠らせる・・・簡単に言うとそんな感じの仕事です。眠らせている間に手術をすると簡単に言いましたが、実はとても難しいことです。あまりにも深い眠りにしてしまうと薬の影響が強くなりすぎて手術中に問題を起こす可能性が高くなるし、かといって浅い眠りでは、痛みを感じたり、途中で目覚めて暴れたりする危険性があります。その「丁度いい」ところで調節するのが難しいです。また、麻酔は眠らせるだけが仕事ではなくて、麻酔から安全に目覚めさせるのも重要な仕事になります。いくら素晴らしい手術をしても、目覚めるときに興奮して暴れて、手術とは関係ないところを怪我すれば本末転倒だし、逆に眠りから覚めないと大変なことになります。麻酔師はとにかく「丁度いい」ところで外科医が仕事しやすい環境を作るのが重要になります。馬に「丁度いい」麻酔をかけるには、麻酔薬などに関するいろいろな知識と数値データをインプットしていないとできません。しかし相手は生き物で、競馬という戦う世界でストレスのかかった環境下に置かれている競走馬なので、頭に入ったデータが時としてマニュアルどおりに使えないこともしばしば・・・。麻酔中の「かかり具合」唯一知ることのできる変化は目の動きと唇の色くらいしか見ることができませんが、その微細な変化を診ながら、限られた情報を瞬時に分析しながらダイヤルを握ります(ダイヤルとは、麻酔薬の濃さを調節するダイヤルのこと。麻酔の世界では麻酔をかけることを「ダイヤルを握る」と表現することが多い)。

 以降は私の主観でものを言うことになることを前置きしますが、競走馬ではある条件がそろうと、麻酔から目覚めるときに馬が異常な行動をすることがあります。おそらく1000頭に1頭くらいの確率で起こることだと個人的には思うのですが・・・。

 ある日のこと、手術を受ける馬の事前情報をいつものように麻酔の準備をしながらチェックしていたのですが、

 「ん?この条件・・・どこかで経験しているな。たしか、昨年の同じ日に麻酔をかけた馬とまったく同じだったような・・・。」

 調べてみると、馬が違うだけで、それ以外で重なる条件がたくさんあったのです。いつも「同じ条件はないかな」と構えて麻酔を行っているわけでもないのに、その日はなぜか、虫の知らせと言えばいいのでしょうか・・・何故か気になる日だったんですね。で、気にはなるものの、いつもと変わらず麻酔をかけて、何事もなく手術は終了して、目覚めさせるための部屋で馬が起き上がるのを待っていました。

 「俺の勘が間違ってなければ・・・異常行動を起こすかも・・・」

と、考え始めるか否かのときに、馬が予定より早く目覚める気配を見せました。

「当たった!」そんなことを考える余裕もなく、馬を落ち着かせるための処置に取り掛かっていました。一瞬大変でしたが、大事には至りませんでした。後になって、

「たまたま起こることも、ちゃんと記憶しておけば後で役に立つな。」と思いました。

 麻酔は身近なことではないので、皆さんにとってはピンと来る話にはならなかったかもしれないですが、めったに起きない偶然も時と場合で必然になるということを言いたかったのです。馬を扱う皆さんも、「今日はどうして思ったとおりにならないんだろう」と悩むことも多いでしょう。その経験は、またいつか来るかもしれないから、上手くいかなくて落ち込むのではなく、貴重な経験として大事にしてください。苦労した経験を糧にして、ある日、思いがけないタイミングでその経験が役に立つこともあると思います。相手は感情を持つ馬ですから、思い通りにならなくて当たり前。根気強く向き合っていくといいと思います。落ち込まず、粘りの精神で踏ん張りましょう!

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-07-06

JRA日高育成牧場のあしはらです。

セレクト・セレクションセール

 年を重ねるほど時が過ぎるのが早くなるような気がしているこのごろですが、もう7月で1年の後半に突入です。6月は暑かったり寒かったりで変な天候でしたが、当初の予報のとおり暑い夏になっていますね。そんな中、来週からセレクトセール、セレクションセールが開催予定です。今年も有名な種牡馬に注目が集まりそうですが、どうなりますかね。また各競馬場では、2歳の新馬戦も熱く展開されています。若馬の走りを見ていると、なんとなくフレッシュな気分になるのは私だけですかね。私自身も両セールに参加予定で、都合がつけば、函館競馬場にも足を運ぼうかなと思っています。また下旬には、毎年恒例となっている浦河馬フェスタも開催されますよ。馬上結婚式、浦河競馬など個性的で魅力ある行事が多いです。夏休み期間中ですし、可能な方は是非浦河まで足を伸ばしてください。お待ちしております。

生産地シンポジウム

 セールの時期に併せて実施されるのが生産地シンポジウム(7月12日開催予定)です。生産地で問題となっている馬の疾病や感染症で、最近注目されているものや、研究されたことについて発表を行い、意見交換をするものです。今回は運動科学がメインテーマ。育成馬、競走馬のトレーニング方法とその効果について、様々な立場、角度から検討した内容について発表されるようです。そのほか、生産地で問題となりやすい感染症や繁殖に関する発表もあります。馬取扱いの皆さんにも参考になる情報も得られますから、可能な方は聞くと面白いかもしれません。こちらは新ひだか町静内での開催です。是非聞きにいらしてください。

触れてわかること

 皆さんは何色の馬が好きですか?鹿毛(黒鹿毛、青鹿毛)、栗毛(栃栗毛)、青毛、芦毛、白毛・・・馬にはいろいろな毛色がありますが、それぞれの良さがあり好みも分かれるところです。私は青毛が大好きで、サラブレッドでは少ない毛色ですが、あの黒い馬体がとてもかわいく感じます。英語ではブラック。私の勝手な解釈ですが、時に光との兼ね合いで、馬体が青く見えることなどから青毛と呼ばれるのかな・・・と想像します。青毛の馬を見るとつい触って、首を撫でたくなります・・・。

 で、今回は毛色の話か、というとそうではなくて、馬を触りながらわかることとは・・・そんな話にしたいと思います。

 皆さんはお肌のケアはマメにしていますか?私はまったくしないほうですね・・・。肌の弱い人、虫刺されに過敏に反応する人、ちょっとした傷が治りにくい人・・・いろいろな人がいると思います。馬も肌についてはいろんな特徴がありそうです・・・。

季節、環境にあわせてセルフコントロール

 言うまでもなく、馬は全身毛で覆われている動物で、よく観察すると、夏は毛がぬけて短く、冬はその土地の寒さによって違いますが、長い毛で覆われます。真冬に放牧されている馬を見ながら、「今日はマイナス15度か・・・流石に寒いだろうな」なんて心配するのですが、あたたかい「毛皮?」に覆われているせいか、一つも寒くありませんと言っているかのごとく、雪の上を駆け回り、硬い雪を懸命に掘って、草探しに夢中になっています。蒸し暑い夏の日はというと、無駄な体力を使わないようにしているのか、じっとしている時間が長くなります。そして日陰を探して、不定期に水を飲むなどして体温調節をしています。また、この時期厄介なのは吸血昆虫です。特にアブですね。これでもか、これでもかと言わんばかりに、続けざまに襲いかかってきます。虫も賢くて、馬が一番嫌がる胸下にたかります。しかし、馬の皮膚は皮筋と呼ばれる筋肉がよく発達していて、このアブを追い払う勢いで皮膚をブルブルっと震わすことができます。また、長い尾の毛を鞭のように振り回して、アブを追い払います。なので、普段から馬の尾は綺麗に手入れしてあげてください。

軽く引っ張って健康診断

 このような馬の皮膚ですが、私たちはこの敏感な肌をつまんで引っ張るなどして、健康診断をすることができます(大袈裟ですが・・・)。

 競走馬の診療のとき・・・まず聴診器で心音を聴き、次に肩や腰など気になる部分の触診をしたあと、必要に応じて首の皮膚をつまんで引っ張ります。皆さんも一度やってみるといいと思いますが、想像以上に引っ張ることができます。その皮膚の厚みや戻り具合で、例えば調教が進んで皮下脂肪が減っているか、血行が悪くて体調を崩していないか・・・などがわかるのです。もちろん個体差があるので、定期的に観察しないとわかりにくいですが・・・。

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 私も若い頃、多くの競走馬を診ていましたが、その時驚いたことの一つが皮膚の薄さでした。人のスポーツ選手でも、皮膚の薄さや低い体脂肪率を聞いて驚くことがありますが、馬も皮膚が薄い点でスポーツ選手と似ていると思います。

デリケートな皮膚

 そんな薄い皮膚だけに、外傷や感染症には弱いという欠点もあります。まあ、馬は血統を考えて交配することから、植物の品種改良が進み管理が難しくなるのと同じで、そのあたりが微妙に関係して敏感な肌となるのかもしれません。具体的には、軽い傷だなと思っても予想以上に患部が腫れたり、膿んだりするとか、細菌や真菌が原因となる皮膚病にもかかりやすいとか・・・。特に白い皮膚の部分は、たちの悪い細菌に侵されやすいです。

 先にアブの話を書きましたが、特に夏は虫刺されも多く見られます。また体調を崩したり、普段食べ慣れてないものや変なものを食べたりすると蕁麻疹を起こすこともあります。時に見分け方が微妙なこともあるので、心配なときは獣医師に相談してケアしましょう。

 私たちも寝起きや体調を崩しているときなど、足がむくむことがありますよね。馬も様々な理由で足が腫れることがあります。そんな時は、腫れている部分の皮膚を押してみて、それが元に戻るスピードがどうかとか、痛がり方はどうかとか、弾力性はどうかとか・・・。そんなところを観察してみましょう。

 今すぐ獣医師に診てもらって治療するべきか、いやいや、これはこの馬のいつもの体調の変化だと判断して様子を見るのか・・・。馬取扱者が十分に把握しておくべき知識と技術なのではないかと思います。

 そうそう、みなさん「ばぼう」はご存知でしょうか?なんとも気持ちの悪そうな名前ですが、不潔な環境で馬を管理していると、たてがみに付く寄生虫の卵のことです。体の中に入ると胃に寄生する悪者なので、そんなときは、駆虫薬を飲ませて馬房を綺麗に消毒することをお勧めします。

 薄っぺらな話で恐縮です。また、あちこちに話が飛んでわかりにくかったかもしれません。とにかく、馬のお肌のケアはとても大切だ・・・と言うことを伝えたかったです。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-06-07

JRA日高育成牧場のあしはらです。

北海道トレーニングセール

 6月です。北海道は初夏、内地は梅雨・・・時期的に少し早いようにも思いますが、そんな気候ですね・・・。

 先月21、22日と札幌競馬場で北海道トレーニングセール2018が開催されました。21日は公開調教で、22日がせりでした。幸いなことに天気にも恵まれ、多くのお客様を迎えて実施され、売却の成績も史上2番目ということで、まずまずだったようです。函館競馬場では滞在する競走馬も増えてきました。夏競馬、北海道シリーズの開幕ですね。開催は今月16日からです。いよいよ2歳新馬が走りはじめますよ。今年はどんな馬が出てくるのか・・・楽しみですね!

子馬の成育も順調です

 繁殖関連ですが、来年出産を予定している牝馬の種付けが終了し、現在お腹の中での成長の様子を見ているところです。当歳馬はお母さんと一緒に放牧地を元気よく駆け回り、草を食べるようになっています。体重も早生まれ組では、180kgを超えるくらいまで成長してきましたね。また1歳馬では450kgに達した馬もいて、何だか大人の風格も出てきました。放牧の体系も全頭昼夜放牧となりました。北海道の夏は短いですが、今年は天気が良く、暑くなる長期予報の情報もあるようです。大地の恵みを受けながら、元気よく育ってほしいと願っています。

Photo 四本の足で立つということ

 今回も、当たり前で何を今更と思いながらも、人間である私たちが実感しにくそうな話題を取り上げてみましょうか・・・。

 いつものことながら唐突ですが・・・馬は四足歩行の動物ですよね。もし、4本の足のうち、1本が地面につけることができなくなって、3本足で立つしなかい状況になったときに、馬はどう感じているのか・・・そんなことを考えてみたいと思います。私たちは二足歩行ですから、そうですね・・・実感をわかせるために、部屋の中で、ハイハイする赤ちゃんのような格好をしながら考えてみてください。

 皆さんは、例えば学生のときの体育の時間や、社会人になって体力測定をするときなど、

 「片足をあげて、何秒立っていられるか・・・用意スタート!」

 体力測定、体育の授業などでの経験、1度はあるのではないでしょうか。限界まで頑張ってみよう!と言われてチャレンジ。個人差がありますから、何分間かでギブアップする人、何時間も立ち続けて、その記録がギネスブックに載る人など様々ですが、最終的には誰もが力尽きて疲れて倒れてしまうでしょう。後になって、支えていた足が軽く赤くなったり、しびれたり、痛くなったりする人もいることでしょう。

でも・・・

 「動物のように足が4本あれば安定するだろうし、楽だろうな。」

 「3本になったとしても、2本よりは多いのだから、立つのには支障がないのでは?」

 そう考えたりしませんか?

 競馬場で全力を出して走る競走馬たち。そのスピードは60km/hを超えるときもあります。そんな彼らは、人で言えば陸上選手。馬によっては、日々の厳しいトレーニングで、あちこちに故障を抱え、治療しながら走っているところは人間のアスリートと同じと言ってもいいでしょうね。パドックでは、元気に歩いているように見える競走馬ですが、中には腰や背中が慢性的に痛くて、電気治療や針治療をしながらコンディションを整えて出走していたり、限局的に関節や骨に痛みがあって、調教の度合いを慎重に見極めながら治療しつつ、出走にこぎつけていたり、ギリギリのところで戦っている馬もいるのです。期待されていたアスリートで成績が上がらず引退して、実はこんなに故障を抱えて治療しながら戦っていたという、涙を誘う話はテレビなどでよく見ます。競走馬も満身創痍で頑張っていますから、時にアクシデントが発生して、骨折や腱靭帯の損傷など重度の故障を起こすことが稀にあります。そんな時、程度によっては、痛くて足をつくことができなくなります。

 人が例えば足を骨折した場合、松葉杖を使ったり、車椅子を使ったりして対応しますが、馬は器用にそんな風にはできません。そこで「3本も足があるのだから大丈夫なのでは・・・」なんて、上述のように安易に考えたくなるのですが・・・

480kgの体重の馬がいたとしましょう。4本の足に仮に均等に体重がかかっていたとすると・・・4で割って

  1本あたり120kg

 (当たり前の計算ですが数字そのものの大きさに、驚く人もいるかなあ・・・)ですね。

 しかし、故障などで1本の足が痛くてつくことができないとなると、今度は3で割って

  1本あたり160kg

 の負担を強いられます。1本あたり40kgも増えていますね!どうでしょう。耐えるのも辛そうに感じませんか?体は天からの授かりもの。毎日の生活する中で、480kgの馬なら、足はそれぞれ120kg前後の負荷に耐えられる程度にしか作られていないので、突然40kgも増えれば大変そうです。別の機会でお話しすることがあるかもしれませんが、馬は5本の指ではなく、1本の指、中指で立っています。そしてその先端は蹄です。この蹄は実にデリケートにできていて、その中は複雑に多くの細い血管で張り巡らされており、体重のかかり具合などで、血行障害などの異常が起こらないように上手にケアをしてあげなければいけませんね。

 「でも、適度に寝たりして、休息をとりながらすごせば大丈夫なのでは?」

 確かにそうですね。私たちも足の怪我で入院したりすると、看護師さんに

 「無理しないで、休みながらリハビリしていきましょう」などとアドバイスされると思います。でも、馬の場合はなかなかこちらの思いどおりには行動してくれません。潜在的に草食動物特有の本能もありますから、「寝たら危険」の思いが自然と働いて、横にならないのかもしれません。寝起きしやすい環境、できるだけ危険なことが起きないように馬房内を整備することが大切になってくるでしょう。

 「人と同じように、ギプスを巻いたり、副木を当てたりして固定し、一時的に動かないようにさせて対応すればいいのでは」と思われる方もいると思います。

 痛めた足をケアする大事な処置ですね。しかし、ここで頭に入れてほしいことは、馬の皮膚がとてもデリケートだということです。ギプスや包帯が擦れて、化膿しやすいです。こちらが都合よく思うような姿勢でいてくれないので、こまめな巻き替えと清潔な環境づくりが大事になってきます。

 「痛み止めの薬を飲ませながら上手くコントロールすればいいのでは」

 なるほど、これも重要な処置ですね。傷めた部分のケアしながら、痛み止めを飲ませれば回復も早くなります。しかし、あせると事故も起こります。人でもそうですが、馬も痛みを忘れるときがあるんですよ。楽になって直ったと勘違いして動きすぎて、患部が悪化する・・・なんてこともあるので注意が必要です。また痛みにもいろいろなパターンがあって、足を動かすときだけ痛いときや、24時間じわじわ痛いときがあります。痛がり方や程度でケアの仕方も変わってきますから見極めが大切です。

 なんとも悲観的な記述が続いて不安にさせてしまいましたね・・・。今は獣医学も進歩してきて、いろいろな技術や治療などで上手くコントロールできるようになっているので、決して心配し過ぎないでください。よほど酷い怪我でない限りは大丈夫ですから!

 ここでは、

  4本の足で立つからこそ、気をつけなければならないことは多い

 知っておくべきことが多い・・・そんなことを伝えたかったのです。誤解がないようにお願いします。馬を取り扱う立場になると、様々な危機に直面している馬の世話をする機会もあると思います。馬取扱い初心者の人も、これから、たくさん経験を積んで、必要な知識を吸収し、ベストなケアをしてあげられるようになりましょうね。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-05-02

JRA日高育成牧場のあしはらです。

BU

 ようやく「今日はあったかいね」という言葉が会話の中で聞かれるようになった陽気の北海道。例年桜の開花は5月ですが、今年は早くて、浦河優駿道路の桜も4月中に開花しました。北海道もようやく春がやってきました。

Photo  先月24日、中山競馬場ではブリーズアップセールが開催されました。快晴とはいきませんでしたが、概ね穏やかな天候のもと、前日の下見、当日の公開調教、事前下見と予定どおりに実施され、セールも会場が満席に近い盛況のもと開催されました。成績についても、上場された育成馬は完売で、売り上げも好調だった昨年と同じくらいでした。今回、上場されなかった育成馬も何頭かいましたが、こちらは今月22日に札幌競馬場で開催される予定の北海道トレーニングセールに向けて調整していくことになります。その経過や市場の様子については、また来月報告することにします。

研究評価委員会

 何だか堅苦しいタイトルですいません・・・。毎年4月は研究関連の節目となる月。研究評価委員会とは、昨年実施した研究および来年度から実施する予定の研究の内容について説明してもらったり、評価してもらったりするものです。それにあわせて、現在実施している研究の経過報告も行ってもらい、意見交換などもする会議になります。私も評価委員として参加してきました。生産育成に関する研究を実施している日高育成牧場からは、現在行っている研究の進捗状況の報告を行ってきました。生産地で抱える問題は多岐にわたっていますが、その中で皆さんが日頃疑問に思っていること、悩んでいることがあると思います。今後、我々育成牧場のスタッフと交流する機会があれば、意見交換などしながら、できることからいろいろなことに取り組んでいきましょう。これからもよろしくお願いします。

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見えて怖い、見えなくて怖い

 さて、今回は、「怖がる」をテーマに書いてみます・・・。いろいろな視点で考えることのできるテーマですが、ここでは「視野」に焦点を当てて考えてみることにします。

 馬は臆病な動物だ、怖がりだ・・・馬を語るときによく聞き、よく使う言葉ですね。馬は見慣れたものには動じないですが、初めて見るものや、予想外の動きをするものに想像以上に驚くことから、そんな風に思うのかもしれません。自分の身を守るため、子供を守るために、後ろ足を振り上げるなどの防御姿勢をとることから、「馬は蹴る動物」と思い込んでしまう人も少なくありません。

 皆さんの中で、馬の蹄鉄をお守りにして持っている人はいませんか?馬は、理由もなく動物や人に危害を与えません。また、どんなに小さな動物であっても人でも、たとえそれらが馬の足元にいても、正しく認識さえしていれば、自ら踏みつけることはないのです。そんな理由で、交通安全のお守りとして蹄鉄を車につけている人がいます。馬はとてもやさしい動物ですから、決して誤解することのないようにお願いします。まあ、あの大きさで迫られると確かに「怖い」と思う人もいるかもしれませんが、変にこちらが驚くと、それに馬が驚きます。うまくコミュニケーションが取れていると判断したときは必ず、「よしよし、かわいいやつだ!」と鼻を撫でたり、首を軽くたたいたりして褒めてあげましょう。きっと喜ぶと思います。まあ、いたずらされることもありますがね・・・。で、今回は、馬がなぜ「怖がる」のかを考えてみるのですが・・・。そうですね・・・自分が怖いと感じるときと、馬が驚いて怖がっているように見える姿を想像しながら、比べて考えてみましょうか・・・。

 私が小学生の頃の話ですが、超常現象などを取り扱った特集番組が流行ったことがありました。たとえば、謎の飛行物体とか心霊現象などのスペシャル番組ですね。私はこのうちの「心霊現象」が怖くてね。毎日、耳をふさがないと寝られないとか、豆電球をつけないと寝られないとか、そんな感じの怖がりな子供だったと思います・・・。まあ、今では平気になりましたけど・・・。人は、見えそうで見えないものとか、あるはずもないのに見えている気がするとか、後ろから何かが迫ってくる、突然何かが現れるなどが起こったときに、予想以上の驚き方をするものです。

馬が見える風景を想像してみる

 では、馬はどうでしょう。

 唐突ですが、皆さん、人差し指を立てて、腕を顔の正面にまっすぐ突き出し、視線は前方で固定し、人差し指を肩と同じ高さを保ちながら、ゆっくりと左右に開くように横に動かしてみてください。どこで指は見えなくなりましたか?だいたい左も右も丁度水平に腕を横に広げたくらいの位置で見えなくなりますよね。つまり、真正面を向いているとき、前方180度の範囲はよく見えるものの、後方180度は直接見えないはずです。人は時にこの見えないところに何かいるのではないかと想像して怖くなりますよね。では、見えていれば怖くないのでしょうか?360度全部が24時間見えている世界を想像できますか?全部見えているんだから安心と思う人もいるかもしれませんが、全部見えると落ち着かないのでは、不安になるのでは?と思う人のいるのではないでしょうか?私は馬は後者だと思うんです。24時間まわりが見えすぎて不安を感じるのだと想像します・・・。科学的な根拠はないんですけどね・・・。

 馬は私たちと違って、目が顔の横についています。馬の視野は実に広くて、真正面と真後ろに死角があるといわれていますが、少なく見積もっても全景360度中340度くらいはしっかり見えていそうです。しかもその目の奥「瞳」をよ~く見ると、私たちのように円形ではなくて、横に細長い楕円形をしているのがわかります。

Photo_4 一般に草食動物は視野を広くして、敵を早く察知できるように目は横についていて、肉食動物は、目前の獲物を狙って確実に捕らえられるように、目は前についていると言われます。草食動物である馬も例外ではなく、油断すると敵に襲われると言う本能的な感情を持っているため、予想もしないようなことに過剰に反応するのでしょう。

馬とおしゃべりをしながら

 私は小心者なので、最初はできなかったのですが、馬の手入れや治療などをするときは、たえず独りごとを言っているかのように馬に話しかけながらブラシをかけたり、注射をしたり、包帯を巻いたりしていました。例えば注射が嫌いな馬がいたとします。馬によってとる行動は違います。立ち上がる、首を振る、肢でたたく、噛み付く、頭突きをする・・・

 「わかったから、嫌いなの知ってるから、ちょっとだけだから、よーしよしよし・・・」もう適当な言葉で、声を大きくして、ごまかしながら注射します。音に敏感なら、逆にそうーっと近づいて、小声で、

 「よしよしよし・・・じっとして・・・」

 なんていいながら注射します。まあ、頭がいい馬もいて、上手くいかない場合も多いですけど、怖がらないようにと思って、黙っていきなり近づくほうが逆に怖がると思います。

自分が怖がらない

 繰り返しになりますが、最悪なのは自分自身が怖がることで、この人間の行動が一番馬を怖がらせます。視界が広い分、どこから人が近づいてくるかを常に見て様子を観察しています。怖がっている人を見ると、馬は自分に何かするのではないかと思って警戒するのです。たとえ、自分が馬取扱いの初心者であっても、自信をもって堂々と馬に接することです。そうすれば、馬は安心します。

 見えるほうが怖いのか、見えないほうが怖いのか・・・わからなくなってきましたね~(笑)。皆さんはどう解釈しますか・・・。今回もお付き合いありがとうございました。

2018-04-11

JRA日高育成牧場のあしはらです。

育成馬展示会

 3月も雪が多く、本当に春が来るのかなあ、と心配していましたが、急激にあたたかくなり、雪解けが進みました。気がついたらもう4月。流石に内地のように桜の季節はまだ先ですが、日高育成牧場も育成調教が架橋に入ってきました。この時期になると、順調に進むものとそうでないもので差が出ますが、あせらず急がず、それぞれの馬にあわせながらの調教が行われています。

 そんな中、去る4月9日に育成馬の展示会が行われました。

 

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今年は肌寒くみぞれの降るあいにくの空模様。展示は覆馬場で実施しました。しかしながら、騎乗供覧の時間には天気も回復し、多くのお客様に見ていただけました。育成馬たちは、4月16日に中山に向けて出発し、24日のブリーズアップセールに備えることになります。

スプリングキャンプ

 一方、繁殖のほうですが、4月8日を最後に予定馬の分娩が終了しました。今年はメスが続き、結局オスは1頭でした。こんな年も珍しいです・・・。2月に生まれた子馬は、早くも100kgを超えました。みんな元気に放牧地を駆け回っています。

 そして、今年も全国の獣医系大学から、春休みを利用して、馬の繁殖について学びたい学生が7名、日高育成牧場にやってきました。昨年は、残念ながら出産には立ち会うことができず、今年こそは・・・と思っていたのですが、またタイミングが外れてしまいました・・・。こればかりは思うようになりません・・・。しかしながら、生まれたばかりの子馬、1ヶ月ほどたった子馬、出産直前の母馬の世話をしながら、多くのことを学ぶことができたようです。これをきっかけにして、一人でも多くの人が、馬の獣医師を目指してほしいと願うばかりです。

はらのうちを考える

 朝だ、今日もよく寝たなあ。一日の始まり、朝ごはんを食べて頑張ろう!やっと昼か。ランチは何にしようかな。今日も1日よく働いた。腹も減ったし、豪華ディナーでいこうか。

 人の場合、1日3回、一定のリズムで食事をする人が多いと思います。まあ、2回の人もいれば4回、5回の人もいるでしょうけど・・・。では、馬はどうでしょうか?放牧された姿を観察してみると、寝ているときを除いて、休むことなく食べているように感じませんか?あんなに食べ続けているのにお腹いっぱいにならないのかな?そんな疑問がわく人もいると思います。その疑問を解くには、馬のお腹の中の特徴をよく理解することが大切だと思います。そこで今回は、馬の「はらのうち」を考えてみることにしましょう。「はらのうち」にはいろいろな秘密があるのですが、あれもこれも書いているときりがないので、話を2つに絞って綴りたいと思います。1つが「小さい胃と大きい腸」についての話、もう1つが「不安定な腸の構造」についての話です。

小さい胃と大きい腸

 最初に断っておきますが、このブログでは、細かいことは抜きにして、大雑把に考えます。

 馬の胃腸は、お腹の中に規則正しくおさまるものの、本来は細長く、太さも部位によってまちまちで、複雑に入り組んだ構造ですが、ここは大きさだけを考えるということで、少し乱暴ですが、胃と腸を2つの球体に例えて考えてみることにします。

 馬の写真の中に、球体に例えた胃腸のおよその大きさを示してみました。

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 まず胃腸の位置ですが、胃が体のほぼ真ん中、腸が体後ろ半分と考えてください。そこで最初の問題ですが、胃はどのくらいの大きさか・・・?図に示したように腸と比較して概ね1:20というところです。体重が500kg前後ある動物ですから、胃はさぞかし大きいだろうと予想した人が多いと思います。しかし、実際はバスケットボールくらいの大きさです。容積にして8~15L。体が大きい割に意外に小さいですね。では残りは・・・というと、もちろん肝臓や腎臓など小さくも重要な臓器がたくさんありますが、大部分が腸なんです!腸も大腸と小腸に分けられますが、ほとんどの部分が大腸で占められています。

牛は胃で、馬は腸で生きている動物だ

 などと表現する人もいるくらいで、図を見るとなんとなくそうだなあ、と思いますよね。皆さんは「お腹がすいたなあ」と感じるときは、たいていの場合、胃が空っぽのときに感じるはずです。便秘で腸にものが溜まっている人も、胃に何もなければ、お腹がすいた・・・となるはずです。馬は腸に比べて胃の体積が極端に小さいですが、あれだけの体を維持するためには、沢山の草を食べ続ける必要があり、小さな胃に溜めきれずにどんどん腸に送り出すので、常にお腹がすいた状態が続くわけです。

とにかく胃が小さく 腸が長くて大きい

 そんな風に考えてもらうといいと思います。

不安定な腸の構造

 さてさて、いったい何が不安定なのか・・・。

 お腹の大部分を占める腸。繰り返しになりますが、実に複雑に規則正しくお腹の中におさまっています。その詳細を書くと煩雑になりますので省略しますが、簡単に覚えるとすれば、

前には細くて長い小腸、後ろに太くて短い大腸

 などと考えてもらうといいと思います。

 イメージの仕方を書くのは非常に難しいですが、一応やってみますか・・・。まずは腸の太さをイメージしてみましょうか。そうですね、片手で「OK」のポーズを取ってみてください。親指と人差し指で作る輪・・・。これが小腸の太さだと思ってください。次に大腸です。両手でバレーボールをつかむ格好をしてみてください。そう!その太さです。次に長さですが、およその数値ですが、体長の約4倍なので8~10mというところでしょうか。他の家畜に比べると短いですが、それでも十分に長いですよね。これが複雑ながらも丁寧に規則正しくお腹の中におさまっています。しかしながら、馬は体調が悪くなると食べ物が胃や腸でつまって便秘になったり、腸が変にねじれて、激痛に襲われたりすることがあります。これを疝痛(せんつう)とか腹痛(はらいた)と呼んで、適切な処置をしなかったり、ねじれた腸が元に戻らなかったりすると生死に関わることがあります。

 では、これがなぜ捻じれやすいかなんですが・・・。いろいろ理由はあるのですが、生まれつき持っている馬の内臓の特徴の一つとして、

腸と腸の間にあって、位置を安定的に保つ膜が発達していない

 ことがあげられます。ん~、ちょっと表現が難しかったな・・・。そうそう、皆さん、頭の中で学校の理科室にあった人体模型図を思い出してみてください。お腹の部分をのぞくと小腸の周りを大腸が囲んでいて、腸と腸の間が膜でつながっていて、比較的安定的な形をしていたと思います。でも馬の場合は、腸が巨大で複雑な割に、その間を支える膜がない部分が多いのです。体調を悪くする、食べ過ぎる、食べない、変なものを食べる、精神的に緊張するなどの要因が重なって、腸の中に糞が溜まりすぎて動かなくなる便秘やガス腹になったり、時に変位してねじれたりするわけです。そうそう、音楽を聴くときに使う二股のイヤホンがありますよね。あれって、イライラするほど絡まるときありませんか?もし二股のところやその他の部分が膜的なものでしっかり固定されていれば、無駄に絡まないかもしれません。どうでしょう?少しわかりにくかったでしょうか?

上手な飼養管理を

とにかく、

胃が小さいので食べ続ける。

腸の中、溜まりすぎには要注意。

 そんなことを常に頭に入れておけば、餌の与え方、放牧地の管理の仕方、糞量などに注意がいくと思います。近くに獣医さんがいれば必ず馬の解剖図が載っている本を持っていますから、勇気を出して一度のぞいてみましょう。それが無理な人は直接詳しい説明を聞くようにしましょう。そして馬の食生活の管理を上手くやってみてください。

 はらのうちを語ると話は長くなるのですが、今回は2点に絞ってみました。機会があれば、また違う視点で書いてみたいと思います。

 今回もお付き合いありがとうございました。