JRA日本中央競馬会 日高育成牧場

2019-05-13

JRA日高育成牧場のあしはらです

今年の桜の満開は・・・

 5月は北海道の春。桜が咲く季節です・・・なんて、内地の人が聞くと「何言ってんの?」なんて思われそうですが、日高ではゴールデンウィーク後半が桜の季節なんです。寒い年だと、ゴールデンウィークが終わってからなんてことも・・・。花見といえばジンギスカンが定番で、場所によってはライトアップで夜桜見物なんてイベントもあります。まあ、結構寒かったりするのですが・・・。私は北海道出身なので、それが当たり前で、滋賀で就職して、はじめて本州の桜を目の当たりにして驚いたのが4月初めに桜が咲いていること。そしてエゾヤマザクラを見慣れている私にとっては、ソメイヨシノ、葉桜でない、鮮やかな桜を見たのが衝撃的でした。そもそも「葉桜」という言葉があることをこのときに知ったかもしれません。写真は今年の浦河の桜並木です。(満開時期に不在にしていたのが残念・・・)

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 そんな中で、子馬たちは、緑も濃くなってきた放牧地をお母さんと一緒に楽しく駆け回っています。1歳たちは、早生まれでは150kgくらいにまで成長して、体も一回り大きくなったように見えます。また北海道トレーニングセールに向けて調整している育成馬たちですが、それぞれのペースにあわせながらの調教が続いています。また、来年の出産に向けて、種付けも計画どおりに進んでいる様子。人も馬も、それぞれの春を感じながらすごしているようです。

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浦河港に豪華客船が

 ゴールデンウィーク明けの5月10日、浦河港に豪華客船が就航しました。船の名前は「ぱしふぃっく びーなす」号。神戸・横浜が出発地で、反時計回りに太平洋、日本海と日本一周するクルーズ船の最初の就航が浦河ということで、この春ちょっとした話題となる出来事でした。実は私もこの船にスタッフとして乗船し、各寄港地の魅力を事前にお伝えするという企画の中で、浦河の馬の生産に関する紹介をするということで、馬の講義をしてきました。今回は45分と時間が限られているということで、馬の種付けから出産、離乳までの過程をわかりやすくコンパクトにまとめてお話してきました。上手く伝わったかどうかはわかりませんが、皆さん真剣に聞いてくれた様子で、良かったのかなと思います。このような機会は頻繁にあるわけではないので、とても貴重な体験でしたが、各種イベントの中で馬の話をすることは、日高育成牧場が協力すべき重要な仕事と認識していますので、皆さんの周りでも何か馬に関する講演などの要望がありましたら、ご一報いただければと思います。よろしくお願いします。

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Photo_5 馬はニンジンが好き?

 さて、今回は食べ物の話です。 

 日常生活の中で、例えば馬の絵を見る、写真を見る、テレビの動物関連の番組を見る・・・なんてこと・・・よくあると思います。だって、このブログを読んでくれている人は、無類の馬好きですから、そういう機会はより多くあると想像します。で、今、馬の絵、写真、漫画など何でもいいので、頭の中で思い浮かべてもらいたいのですが、例えば食べるシーンだと、馬が美味しそうに何を食べているか・・・おそらく多くの人は、草やニンジンを食べている姿を思い浮かべるのではないでしょうか?

「馬はニンジンが大好きだよね」

これ、常識!なんて思う人・・・多いと思います。

 こんな書き出しだと、次に否定が入りそうなものですが、いえいえ、私も馬はニンジンが大好きだと思いますよ。

 でも、何で馬といえば「ニンジン」なんでしょうね。

諸説あり

 私が聞いた話では、馬は甘いものや甘い香りがするものが好きで、例えばおなかがすいていそうな場面などで手懐けるために、たまたまニンジンを使うことが多かったから・・・と聞いたことがあります。馴致のときなど、ハミを装着するときに口を上に上げて嫌がる場合をよく見ますが、ニンジンを食べさせて、その隙に装着するのを見たことがあります。色、硬さ、味、使いやすさ・・・様々な理由で多く使うようになったかもしれません。そんな感じで、馬といえばニンジンというイメージがついたのかもしれませんね。確認したことはありませんが、ニンジンが嫌いな馬もいるかもしれません。しかしながら、確実に甘いものを嫌う馬はいないと予想します。

 私が競走馬の治療を現場でやっていた頃・・・

 「先生、食欲がないんだよね・・・何かいい薬を飲ませてほしいんだけれど・・・」

 と診療依頼を受けることがしばしばありました。大体の薬は味がないか、苦いかですから、なかなか難しいですが、食欲増進作用のある薬はいくつかあったので、それに甘いものを混ぜたり、甘い香りのする薬を入れたりして与えたものでした。薬を飲ませるときは、鼻からチューブを入れて流し込むのが普通ですが、食欲を掻き立てるには、舌に絡ませたほうが効果ありのこともあるんですよ。なので、小型のポンプに薬を入れて、強制的に口の中に押し込むこともありました。歯茎を出して、いかにも「美味しくない~」という顔をするのが面白かったりするのですが、もちろん、食欲を取り戻して競馬で頑張ってほしいと思いながら治療をしていましたので決して悪気はありません。勘違いしないでくださいね。

疑問と工夫

 では、ニンジン以外で好きなものはあるんでしょうかね?例えばバナナ。大好きです。バクバク食べます。栄養もバッチリですしね。リンゴも大好きですよ。大きいままだと消化に悪いので切ってあげたほうがいいのですが、ガリッガリといい音立てて美味しそうに食べます。今ではあまり見なくなりましたが、角砂糖もガリガリと美味しそうに食べます。まあ、甘いものは何でも好きなのかもしれません。

 競走馬は競馬に応じたエネルギー摂取が必要ですが、厳しい調教を重ねていると、体調によっては食欲が落ちる場合が出てきます。食べなければ翌日の調教に影響が出るだろうし、食べなかったから、翌日の調教強度を落とすとなれば、競馬の成績に影響してくる。管理する人は、何とか食べさせたい、栄養のあるものを摂取してもらいたい・・・そんな考えから、ニンジン以外の好きなものを探すこととなるのです。バナナがいいらしいよ、リンゴもいいかも・・・なんて話が広まってね。

 昔、面白いことをやっている場面に遭遇しました。普通、馬の飼葉桶って一つですよね。あるとき、プランターのような容器を馬房の中に5つくらい並べて、1種類ずつ食べ物を入れて与えていたんです。面倒くさいことするなあ、としかそのときは思わなかったのですが、人に食べ物の好き嫌いがあるように、馬にも好き嫌いがあるんですね。で、その馬が好きな食べ物を探って、必要な栄養をたえず取れるようにしようと試みていたわけです。実に面白いですよね。

 単純な食べ物の話・・・と受け取られてしまいそうですが、実は、当たり前にやっていることでも、ちょっと疑問を感じたら、みんなに提案して、アイデアを出しあいながらいろいろなことにチャレンジしてみるべき・・・そんなことを食べ物の話を例にあげて言ってみたかったのです。これは馬に乗っているときも当てはまることがあると思います。最初は教えられたとおりに基本をやって、そして技術が上がってきたところで、自分なりに工夫してみるのです。時と場合によってはそういうことが大切になってくると思います。

 あらゆることに疑問を持ち、場合によっては何か工夫してみる・・・。皆さんの技術を伸ばすために必要なことだと思いますよ。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-04-16

JRA日高育成牧場のあしはらです

ブリーズアップセールに出発

 昨年のセール後にやってきた育成馬たち・・・。馴致、調教などいろいろなステップを踏みながら成長し、4月10日の展示会も終了し、セール開催地に向けて出発の日を迎えることとなりました。そして、この原稿がアップされる頃は、住み慣れた日高をあとにして、中山競馬場に到着し最後の調整を行っていると思います。順調に調教メニューを消化していった馬、何度か調子を崩して足踏みした馬・・・いろいろでしたが、全体的には例年に比較して順調だったのかなという印象です。4月23日のブリーズアップセールで購買された育成馬は、各所属厩舎および関係牧場に移動して調教を積み、6月の新馬デビュー戦に向かっていくことになります。私もテレビ観戦にとどまらず、機会を作って、育成馬のレースを見に行くことができればなあ、と思っています。

 残念ながら今回のセールに出場できなかった育成馬ですが、その中の何頭かは5月の北海道トレーニングセールに向かいます。ブログ投稿のタイミングにもよりますが、その状況については、また報告したいと思います。

分娩もまもなく終了です

 分娩も今月末予定日の1頭を残して無事に終了しました。親子たちは、それぞれの成長に合わせた広さの放牧地を駆け回り、元気に過ごしています。また、原稿を書いているこの日は、のんびりと過ごす1歳馬を写真におさめることができました。

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Photo_2  最初に産まれた子馬はすでに100kgをこえており、かなり大きくなりしっかりしてきましたよ。草も青々してくるこの頃になると、栄養のある草を食べた母親の乳を飲むことで、子馬たちは急激に成長することになります。過去に何度か言ったことがあるかもしれませんが、成長の過程では、バランスがとても大切です。上半身の成長が先行すれば下肢に負担をかけますし、逆の場合は下肢に適度な負担がかからず、骨や筋肉、靭帯の成長や強度に影響が出てきます。特に、生まれて3ヶ月前後が一番変化の激しいときなので、より注意深く観察しなければなりませんね。その成長の様子については、今後も報告していきたいと思います。

気分を変えて

 若いときは予想もしなかったことですが、年をとって50を過ぎて痛感することが2つあります。一つは字が見づらくなってきたなあ、ということ。そして、もう一つが、あちこち体が痛くなってきたなあ、運動不足だよなあ・・・ということです。私は根っからの怠け者なので、運動不足解消のためにスポーツをするとか、朝ランニングをするとか、ストレッチをするとか考えません・・・。だめですよね。でも多くの人は、

 「どこかのスポーツクラブの会員になって、トレーニングで汗を流してみよう」

 「水泳なら若いときに得意だったし、久々に泳いでみようかな」

なんて、気分を変えて体を動かしてみる、いつもと違う筋肉を動かしてみるなどと考えることでしょうね。また、普段からスポーツをしている人で、思わぬ故障をしたりして、休養を余儀なくされたときに、筋肉の衰えや、心配機能の低下を恐れて、そのときに合ったトレーニング方法を考えて体を動かすことでしょう。そんな努力が実を結んで、回復したときには、そう苦労することもなく、体も元に戻り、いい思いをしたりするでしょう。

 馬の場合も、一種の陸上選手と言えますから、故障とは背中合わせのところがあります。私は過去に、「馬の温泉」「リハビリセンター」とも称される福島県いわき市の競走馬総合研究所常磐支所というところで勤務した経験があります。そのような施設は、日本では限られたところにしかなく、様々な方法で馬がリハビリを実施していることは、あまり知られていないかもしれません。

 今回はごく簡単ですが、トレッドミルとプールを取り上げて書いてみたいと思います。

トレッドミル

写真はトレッドミルと言う器具を使ってトレーニングを実施している育成馬です。

Photo_3  ひと昔前なら、高価で設置も面倒で、使い勝手もあまりよくなかったものですが、近年ではとても使いやすく、牧場単位で所有できるほど身近なものになってきました。その利点はいろいろ・・・。第一は効率的に運動ができることでしょうか。少ない人数で、大きく場所をとることもなく、決まった時間の中で行うことができます。その前段階として、準備運動をするための施設であるウォーキングマシーンも普及しており、これらを組み合わせることでバラエティに富んだ調教をすることができます。私がJRAに入って間もない頃のトレッドミルはどちらかと言うと研究目的で使用することが多かった・・・。例えば、馬の走行フォームを記録して分析するとか、馬の吐く息や血液を走行中に採取して能力分析するとか、内視鏡を装着したまま走らせて呼吸機能の検査をするとかです。またある程度の馴致訓練も必要でした。今では、育成調教の過程の中で、調教進度遅れの育成馬に使用したり、全馬トレッドミル調教の日を設けて、運動強度の判定をしたりと、いろいろな使われ方がされるようになってきました。今後は至るところで、そのような光景を目にすることになるかもしれませんね。

 プール

 馬が泳ぐ姿など、想像したこともない、見たこともない・・・と言う人、きっと多いですよね。馬用プールはJRAでは東西のトレーニング・センターや福島県いわき市にある馬のリハビリセンターにあり、調教やリハビリに利用されています。一番の利点は、足元に不安がある場合でも、泳ぐことで心肺機能を低下させないことでしょうか。水の中に入ると水圧がかかるので、呼吸するときに力が要ります。そして、泳ぐためには一所懸命前後の肢を動かすので、筋肉トレーニングにもなりますね。

 見ていると面白いですよ。人を同じで泳ぎの上手い馬、下手な馬がいます。下手なパターンで一番多いのは、あせって、前足だけ動かして、後ろ足を動かすのを忘れること。そうすると、お尻がだんだん沈んでいって、「助けてくれー!」という状況になる。そんなときは、急いで出口まで引っ張ります。上手な馬は、お尻が水面に見えて、ぷりぷり動かしている姿を観察できます。トレセンでの見学は条件があり難しいことが多いですが、福島県いわきでの見学は比較的自由ですので、HPなどで調べて行ってみるのもいいでしょうね。屋外プールなので、実施期間は概ね5月中旬から10月上旬です。寒いと水に入れないところは人と一緒です。

 ちなみに私は25mも泳げません、あしからず。

 写真はプール調教の様子と温泉で疲れを癒しているところです。

Photo_4 今後の活用は皆さん次第!

 今回はリハビリ法の単純な紹介・・・というよりは、これらの方法をどう発展させていくかは皆さんが考えていくことだ・・・そういう思いで書いてみました。皆さんの中にもリハビリに興味のある人がいると思います。多方面から情報を仕入れて勉強してみてください。今後どんな風に使われるようになっていくのか・・・それは皆さんが是非考えていってくださいね。使っていくうちに思いがけない発見もあるかもしれませんよ!

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-03-19

JRA日高育成牧場のあしはらです

春は近くに

 3月はJRAの定期人事異動。今年も新しい仲間が加わりました。

 「思ったより暖かいですね。」

第一声がみなさん、そんな感じだったのですが、確かに2月の終わりから、まとまった雪も降らずに、3月下旬くらいの陽気が続いている日高です。育成馬の調教も順調で、1歳、繁殖牝馬、当歳馬もそれぞれ、元気いっぱいです。

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 そうは言っても、桜が咲くのはまだまだ先で、風はまだまだ冷たいのですが、日差しは春がもう近くまで来ていると感じられるほどになってきました。

スプリングキャンプ

 毎年恒例になっている研修ですが、今年も全国の獣医系大学から学生がやってきました。目的は、馬の出産、繁殖牝馬、当歳馬の飼養管理の勉強をすることです。そして、その中には、馬取扱いの仕事を目指す皆さんと同じように、馬に関係する仕事について興味を持つ学生もいます。私もこの春の時期になると、学生で将来どんな仕事についたらいいのかと、悩んでいたことを思い出します。学生にとって不安なことは、そう、単純に、

 仕事するってどんな感じなのかな

 続けていけるのかな

そんな感じですよね。私もそうでした。無責任なことはあまり言えないのですが、どんな仕事でもやってみないとわからないです。そして

 意外と合っているな

 ちょっとつらいかな

 まるで合わないな

いろいろ感じながら仕事を始めると思います。まるで合わないなと言う人は、次の仕事を探すのがいいのかもしれないですけど、自分が一大決心をして始めた仕事なんですから、少々つらくても、自分の決断を信じて粘って続けてほしいですよね。私も正直、今の仕事が合っていたかと言えば、そうでもなかった(もう年なので過去形になってしまう・・・笑)と答えてしまうことが多いです。でもそれは、振り返ってみてすべてが決して無駄なことではなかったと思っています。楽しいこともうれしいことも沢山ありました。どんな仕事でも、いいことも悪いこともいろいろあって過ごすことに変わりないですから、まずは自分で選んだ仕事を好きになる努力をしてみればいいのです。あまり難しく考えすぎないことですね・・・。

耳を澄まして

 大学を卒業して、もう30年近く経ちましたので、出身大学の今の状況についてはほとんどわかりませんが、私が通っていた頃・・・6年間の学生生活の中で、4年目から「研究室」に所属していました。私が4年生のときは、6年生が3人、5年生が3人、4年生が5人、先生が3人で、事務官が1人の計15名が所属していました。3人の先生にはそれぞれ自分の部屋があって、そのほかに実験室、実習室、コンピューター室、暗室、顕微鏡室などがあって、部屋の入り口に自分の名前を書いたマグネットが用意されており、各部屋に行ってこもるときは、壁に書いてある行き先地図に自分のマグネットを移動させる・・・なんてことをやっていました。当たり前の話ですが、登校するときは靴を履いてきますが、研究室から室間移動するときはスリッパを履いて歩いていました。私の部屋の机は入り口に一番近いところだったので、パタパタと廊下の足音が良く聞こえる場所でした。

 研究室生活にも慣れてきたころ・・・。

 お昼休みは、大抵、生協でA・B・Cランチを食べるか、少し離れた食堂に行くか、大勢でジンギスカンを食べに行っていました。ある日、一人で早々に昼食を終え、他のメンバーがランチに行って、部屋にいたときのことです。昼食を終えた順番に人が帰ってくるのですが、ドアを開ける前に

 「あ、○○が帰ってきた。」「3人帰ってきた」など、足音を聞いただけで、誰かを当てるようになっていることに気づいたのです。それは、履物の種類が違って微妙に音が違うことだったり、人によって歩くリズムが異なったりすることだったりすると思うのですが、普段から意識して聞き分けようとしたものではなく、毎日のことで自然と耳に入っていたんですね。

目だけに頼らない

 馬は皆さんご存知のように、常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)と大きく分けて3つの歩法がありますが、それぞれ4拍子、2拍子、3拍子とリズムも違います。例えば、毎日同じ馬の調教をつける、見る場合や、多くの馬を見ながら比較するなど、そんな機会を持つことが多い人ならば、目だけでなく耳も使ってみてはどうでしょうか。

 例えば、右前肢に痛みを感じている馬がいたとしましょう。程度は様々で一概には言えませんが、右前肢をつく時に痛みを感じて頭が少し上がる、痛くない左前肢をつく時間が長くなり深く肢をつけるため、頭が少し下がる動作をするかもしれません。運動している場所が、固いところならはっきりと着くときの音が違い、柔らかい場所なら、サクッサクッした音の高さやリズムが違って聞こえるかもしれません。そのほかにも、馬の息遣いが変わってくることもあるかもしれないし、前後の肢を時々ぶつけながら走る馬もいて、その当たる音の程度が違うことに気づくかもしれません。硬い地面での常歩でも元気のいいときと、元気のないときで、蹄音が異なるかもしれません。百聞は一見にしかずですが、聞いてこそわかることもあるので大事にしてほしいです。

 くだらないと笑われそうですが、何もないのに、馬が警戒して耳をたてて遠くを見つめることがあります。何を見ているのかなあ、何か聞こえるのかなあ、といつも知りたくてたまらなくなります。いらいらしているのか、何が気に食わないのか、ものすごい音をたてて、壁をバーン!と突然蹴るのもいますよね。まあ、わからないことだらけですけど、人間と同じで、馬も感情豊かな動物ですから、たくさんコミュニケーションをとって、多くのことを知り合える仲になりたいものです。皆さんはどんな馬に出会って、これからどんな風に過ごすのでしょうね。

 4月になれば、あちらこちらの学校、会社で様々な思いを秘めた人の足音が聞こえてきます・・・。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-02-26

JRA日高育成牧場のあしはらです

 寒い毎日が続く北海道。日高育成牧場は北海道の南端、襟裳岬に近い浦河町にありますが、浦河市街から山側に約10km入ったところにあるため、気象庁が発表する浦河町の天気予報と少し違うことが多いです。晴れや曇りの予報でも雪だったり、暖かくて雨の予報でも雪だったり、最低気温がマイナス5度と発表されてもマイナス10度だったりといった感じでしょうか。また育成牧場の事務所と、毎日朝の打ち合わせをしている業務詰所は、車で5分程度の距離があるため、事務所では雨が降っているのに、詰所では雪ということも珍しくないです。しかしながら、原稿を書いているこの日は、天気も良く、澄んだ青空、遠く日高山脈もきれいに見えて、寒さに強い放牧中の馬たちも、気持ちよく草を食んだり、うとうと眠っていたりしていました。育成馬の調教も、坂路を中心に強い調教も行われるようになって来ましたし、繁殖牝馬の経過もそれぞれ順調で、今月22日に1頭目が誕生しましたよ。

Photo 近隣の牧場でも、親子の姿も見られるようになって来ましたね。日も長くなり、暖かさも増して、あわただしくなる毎日もすぐそこという感じです。

展示会

 2月上旬は展示会の季節で、私も行ける範囲で見学してきました。皆さん、いろいろな目的で来られていると思うのですが、たとえば生産牧場や馬主の皆さんは、昨年の競走成績はどうだったのだろうかとか、新種牡馬はどんな交配がベストなだろうかとか、いろいろな思いをめぐらせて見ているものと想像しました。皆さんの今年の注目の2歳デビュー、今年1歳、そして新規の種牡馬はなんでしょうか?私もいろいろ気になる馬はいますが・・・。

 牧場の関係者の方とお話しする上で、種牡馬について勉強しておくことは大切だと思います。まずは、どの繁殖牝馬にどの種牡馬をつけるのかなどの考えを自分なりに整理して、牧場側の種付けの方針はどうなっているのかを聞いてみる・・・そんな会話をかわすことで、知識の幅を広げることができるでしょう。自分が頭で描いていることと同じだな、基本的な考え方が違うなと思ったり、知らないことがわかったりすると思います。一連の展示会は終了しましたが、見学については、場合によっては招待制だったり、事前連絡が必要だったり、関係者以外立ち入り禁止だったりすることがあるので、相手のご迷惑にならないようによく調べて出かけてくださいね。

私の毛色の楽しみ方

 私がJRAに入会した平成2年は、あの芦毛のアイドル「オグリキャップ」の現役最後の年でした。あれから時も経ちましたので、オグリと聞いてもピンと来ない人も増えたかもしれませんね。あの頃は今より競馬が盛り上がっていたので、全盛期を過ぎたオグリキャップが有馬記念で復活優勝したときは、日本中が盛り上がりました。後のクロフネなどの活躍もあってか、芦毛は一種のブームにもなりました。

 さて、毛色についてはこれまでも触れてきましたが、今回は私独自の楽しみ方を紹介してみましょう。偉そうに語るつもりはありません(笑)。皆さんが私に負けない楽しみ方を持っていることは十分承知しております。ですので、「今までとは違う視点で楽しんでみては・・・」そんなタッチで書いてみたいと思います。

理科は苦手、遺伝子は苦手

 毛色の話になると、どうしても避けられないのが遺伝の話ですね。「メンデルの法則」なんて言葉・・・聞いたことありますか?簡単に言えば、お父さんとお母さんから一つずつ遺伝子をもらって、その結果、どっちが優性か劣性かで性質が決まるというやつです。血液型が一番有名でわかりやすいですよね。たとえばAとA、またはAとOならAが優性でA型、OとOは劣性どうしでO型というやつですね。せっかく毛色を楽しむのですから、遺伝の話は完全には避けられないですが、難しいところはできるだけ抜いて話ができればと思います。

私は3つに分けて観察します

 馬の毛色はたくさんありますが、サラブレッドは8色とされていますね。

     鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、栗毛、栃栗毛、芦毛、白毛

 です。この中で例えば鹿毛の場合ですが・・・一口に鹿毛と言ってもいろいろいて、

 「あれが鹿毛?黒鹿毛だよね」「あんなに黒いのに青鹿毛か。青毛みたいだよね」

 なんとも微妙な会話が、あちこちから聞こえてくることが多いです。そういうややこしいのは、ここではやめます。後で血統の資料などで皆さん自身が確認するなどして、自分なりに楽しんで観察してみるといいと思います。私の場合、まず、3つの部分に分けて観察することにしています。それは、

     長い毛 短い毛 肢の色

です。「長い毛」とは、前髪、たてがみ、尾の毛などのことです。「短い毛」はそれ以外の全身の毛のことで、「肢の色」は前が腕節、後ろは飛節以下の色のことです。実は3つそれぞれが、

     黒くなるか黒くならないか

が、遺伝と関係していて、その組み合わせで毛色が決まってきます。

まずは栗毛から

 まずは簡単なところから、栗毛の馬を見てみましょうか。

たてがみや尾など「長い毛」は黒いですか・・・黒くないですね。

次に体の「短い毛」の色はどうですか・・・黒くないですね。

最後に「肢の色」はどうですか・・・黒くないですね・・・ということで栗毛となります。

 この栗毛は、先ほど少しお話した人間の血液型のO型とよく似ていますよ。人間の場合AB型とO型からはO型は生まれないことはご存知ですよね?必ず優性のAかBをもらうので、A型かB型になります。それと同じように、ここで言う「黒くなる」という性質は優性。なので、先ほど分けた3つのどこかに一つでも「黒くなる」要素を引き継ぐと栗毛ではなくなるのです。

 そこで、こんな法則が生まれます。

                栗毛と栗毛の子は必ず栗毛

 栗毛は黒くならない遺伝子しかもっていないのでこの法則になるわけです。

 「私の好きな馬は栗毛だけど、親の毛色は何かな?」

 と思ったらこの法則を思い出して、両親の血統、写真を見てみましょう。

 「栗毛と栗毛の子だったんだ。そりゃ、栗毛が生まれるに決まっているよな」

 「親はどっちも鹿毛なのに栗毛の子か。黒くならない性質を両方からもらったんだな」

 などと考えることができるでしょう。

 栗毛は栗毛でも長い髪と肢が黒くなくややこげ茶系の体の色をした栃栗毛と言うのもいますから、そうそう単純ではないんですけどね。まあ、ここでは難しい話はしないことにしていますので・・・。

青毛は遺伝の話は「なし」で観察しよう

 そういうわけで、鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛の場合は、栗毛とは間逆に、黒くなる遺伝子が微妙に関係してそれぞれの毛色になるわけですが、栗毛を理解したところで次は間逆の全身真っ黒の青毛について知りたいところですね。前にも言ったことがありますが、青毛はサラブレッドではかなり少ない。「これはどう見ても青毛でしょう」と思って資料を見ても、青鹿毛のことが多いです。青毛は「全身真っ黒」なので、もし青毛でないならどこかに黒くないところがあり、そこを探すのがポイントとなるので、そこを皆さん自身で観察してみてください。意地悪ですが答えは書きません。そして、その場所を覚えたときに、青毛と青鹿毛の区別ができるようになっているはずです。また、鹿毛は体が黒くない、黒鹿毛は少し黒い、青鹿毛は大部分が黒い、青毛は全身真っ黒と単純に覚えればいいのですが、微妙なのもたくさんいますから、毛色の鑑別資料と照らし合わせて観察すれば面白いと思います。

芦毛は変化を楽しもう

 そして芦毛。今まで「黒くなる」とか「黒くならない」とか語ってきましたが、芦毛は、その法則に左右されることなく、「芦毛になる」という遺伝子が一つでも入れば前の毛色が何であろうと芦毛になります。なので、芦毛でない親どうしの組み合わせから芦毛が生まれることはありません。で、こんな法則が生まれます。

                 芦毛の親はどちらかが必ず芦毛

 お母さんが芦毛で白いのに、子供が黒い、茶色いなんていう風景はよく目にしますが、この場合、子供が親の優性の芦毛の遺伝子持たずに生まれるパターンですね。そして楽しみたいのが、何色からの芦毛かですよね。芦毛の当歳は生まれたときは原色のままで、少しずつ変化していくので、かなり面白いです。ちなみに、日本には数頭しかいない白毛。これは芦毛との大きな違いは、生まれたときから白だということ。他の動物でも見られますが突然変異とも言われており、これまで生まれた数が少なく、完全には謎が解明されていないようなので、ここでは語らないことにしますね。

 かなり雑な説明になってしまいましたが、人によって毛色の楽しみ方は違うと思います。また、専門家から見ると少し間違っていると取られる部分もあるのですが、私の話は参考程度として、正確な情報を確かめてくださいね。とにかく、皆さん独自の毛色の楽しみ方をしていただければと思います。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-01-17

JRA日高育成牧場のあしはらです。

寒中お見舞い申し上げます

 年は明けて平成31年となりました。皆さん、どんな気持ちで新年を迎えたでしょうか。原稿を書いているこの日は、遠く日高山脈もきれいに見えるいい天気です。

Photo_3  何といっても今年は新元号となる年ですよね。何でも4月に発表だとか・・・。どんな名前になるのか楽しみじゃありませんか?

 私の祖父は1897年(明治30年)生まれ。物静かな祖父で、小さいころ、そんなに多く機会はありませんでしたが、自身の戦争体験の話を聞かされたことがありました。その内容ですが、飛行機の上に飛行機が位置して、そこから石を落として撃沈させたなど、父母や学校から聞かされた太平洋戦争の話と比べると、どうもイメージが違うものでした。その理由は後になってからわかりました。日露戦争(1904年)より前に生まれた人の話ですから、第一次世界大戦(1914年)の話だったのですね。もう今となっては、明治生まれの人の話を聞くのも難しくなってきましたが、あの時もっといろいろ聞いておけばよかったなあと思います。子供の頃は、明治、大正生まれの祖父母と過ごし、今は昭和生まれの妻と平成生まれの子供と過ごしている。そして、もうすぐ5つ目の時代と関わることになる・・・。そう考えると、何か不思議な気持ちになります。

 近年はいろいろな自然災害が起こり、少子高齢化が進むなど、時として先の見通せない暗い気持ちになることもありますが、せっかく元号も変わるのですから、気持ちを新たに、希望が持てる時代になっていってほしいと願います。私たちが携わる馬の世界に目を向けると、生産地では市場が活気づいていい感じですし、また競馬では昨年は三冠牝馬が誕生するなど明るい話題が多く、大いに盛り上がりを見せましたよね。そんな中、日高育成牧場も、馬を盛り上げるべく、こつこつと育成や生産に関する様々なことに積極的に取り組んでいきたいと思っています。読者の皆さんの中でも、私たちと一緒に職場で仕事をする未来の仲間がいるかも知れませんね!なんか、いろいろ考えるとわくわくしますが、私もこのブログを通して、皆さんに情報発信し、張り切ってやっていきますので、お暇な時間にのぞいてやってください。今年もよろしくお願いいたします。

生産地疾病等調査研究

 昨年の12月になりますが、日高の馬の獣医師が集まって、生産地疾病に関する打ち合わせを行いました。3年を周期に生産地で問題になっている疾病や感染症に関するテーマを考えてJRA、生産地、家畜保健衛生所の獣医師が一緒になって調査研究するものです。多く取り上げられるものとしては、繁殖に関する疾病や子馬特有の疾病が多く、感染症では、流産を引き起こす原因となる馬鼻肺炎や子馬の下痢の原因となるロタウイルス感染症など・・・。平成31年新元号元年からは新たな3年間のテーマに沿った調査研究が始まります。機会を見つけてあらためて紹介できればと思います。

荒馬の轡は前から

 新年1回目と言うことで、何にしようかと迷いましたが、馬に関係することわざを絡めながらお話してみたいと思います。

 どうしても上手くいかない。思うように乗れない。言うことを聞いてくれない・・・。

 馬乗りに限った話ではないですが、生きていれば困難の一つや二つ、いやそれ以上にぶつかって戸惑うこともあるはずです。私もいろいろな経験をしてきました。くよくよしても仕方がないので、たいていのことは何とかなると思って少しは頑張ってみるものの、挫折して人に頼ったり、ごまかしたりすることもあったと思います。旅の恥はかきすて、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥なんていいますけど、本当にそのとおりで、恥ずかしいと思って逃げないで、いったんそこで恥をかいて、反省して、あらためて真正面からぶち当たればよかったんです。終わったことだから気軽に書いているけど、現場ではこの一歩がなかなか踏み出せないんですよね。暴れ馬がいたとして、制しようと無理なことをしないで、まずは口に轡をかませてから制すれば大人しくなるんですよね。時にこのことわざを思い出して、自分の行動を見つめなおしてみましょう。

弱馬道を急ぐ

 私のように、あまり能力の高くない人間は、困難にぶち当たったとき、何とか早く解決できないかとあせるものです。新人の時にはわからないと許されても、経験を重ねた立場になってくると、わからないでは済まされないこともあります。

 馬はちょっとしたことで発熱します。原因はいろいろです。獣医師はまず聴診器で心臓の音を聞くことが多いでしょう。次に何処が悪いのかを探るために、いろいろな部分を触るでしょう。風邪かな?疝痛かな?・・・いろいろな可能性があるので、頭の中を様々な診断病名が駆け巡ります。そして、獣医師の正確な判断を誤らせる敵が現れます。

 先入観・・・。

 知識をたくさん持つことは大切で、いろいろな面から推測して正確な診断をすることができます。しかし、変に余裕を見せたり、あせったりすることで、「こうなら、こうであるに違いない」という先入観が邪魔をして誤った診断をすることがあるのです。私もいろいろ恥ずかしい失敗をした経験があるのですが、やはり、すぐには診断がつかなくて、あせって失敗することが多かったですね。

 発熱は、感染症にかかって呼吸器に炎症が起こったときに出るというイメージが強いと思います。しかし、どこかが痛くても熱は出ます。残念なことに馬は「痛い」とは言ってくれませんので、こちらが気づかないといけない。

 外見じゃわからない、蹄の内部の炎症だった。

 普段はあまり触ることがない乳房の炎症だった。

 胸を打診して反応があったが、肺炎ではなく骨盤の骨折が痛くて反応していた。

 あせって、早く結果を求めようと、呼吸器の疾患と決めつけて、結論を出そうとあせった罰が当たった例です。最初に歩かせてみれば、全身をよく観察して診断を下していれば落とし穴にはまることもなかったよなと大いに反省した経験でした。皆さんも私と似たような経験をしそうになったら、このことわざを思い浮かべてください。

できないことはできない・・・ですが

 人によっては、すぐ構えてしまう、ためらってしまう、怯んでしまう人・・・少なくないでしょう。私もその一人です。口では簡単に言うけど、できないものはできない・・・。確かにそうでしょう。でも全部できなきゃ、何もかもがだめ・・・と言うことでもないと思います。10回に、いや100回に一回でいいから、勇気を出して思い切ったことをやってみましょう。たとえ結果が出なくても、何らかの収穫はあるはずです。なんだか、自分に言い聞かせているような感じですけど、そんな人はきっと世の中にたくさんいるから、自分だけ・・・と思わないでくださいね。お互い歯を食いしばって新しい時代を生きていこうではありませんか・・・ちょっと、大袈裟ですかね。馬に乗れない私から見れば、馬に乗れる、馬に乗ろうとする皆さんはたいした者ですよ!さあ新しい時代です。張り切っていきましょう!

 今回もお付き合いありがとうございました!

2018-12-19

JRA日高育成牧場のあしはらです。

馬とともに過ごした平成

 早いもので今年も終わりですね。来年は平成最後の年となり新しい時代を迎えます。

 私が獣医になると決意したのが昭和56年。獣医学科に進学できたのが昭和59年。そして卒業して馬の獣医師としてスタートを切ったのが平成2年。来年は平成31年新元号元年ですから、私の平成は「馬とともに過ごした時代」といえます。今、このブログを読んでいる方にとっては、きっと次の時代が、「馬とともに過ごす時代」となるんでしょうね。

 そして、日高育成牧場の来年明け2歳となる育成馬にとっても、新しい時代が、彼らが競馬での活躍する場となるんですね。

Photo  おそらく時代が変わっても、世界情勢が大きく変わるわけでもなく、日本も今と変わらず、いろいろなことに心配を抱えながら時が過ぎていくのでしょうけど、私たちは私たちなりに、馬と触れ合いながら、いい時代をすごしていけばいいのです。とにもかくにも、来年もよろしくお願いいたします!

浦河獣医師会講習会

 去る12月8日に浦河獣医師会が主催する講習会が行われましたね。行かれた方・・・いらっしゃいますか?今回は「アメリカの馬産」と題して、日高育成牧場の獣医師が講師になり、昨年研修で学んできた内容についての報告でした。アメリカ、ケンタッキー州における繁殖牝馬の管理、分娩と診断、当歳馬の管理、離乳、種付け・・・などを中心に、多岐にわたるものでしたね。生産者、獣医師など多くの方に集まってもらい、興味深く聞いていただくことができました。残念ながら来ることができなかった方は、身近に聞いた人が入れば情報を仕入れていただければと思います。そして自分の牧場との違いを感じながら、今後に役立てていただければと思います。

忍耐と駆け引き

 「年をとると怒りっぽくなる」

 最近は本当に身にしみて感じることです・・・。今まではそんなことはなかったのに、些細なことで怒りを感じることがある。少し前なら我慢できたのに、すぐに口に出してしまう。いけないなあ、直さなきゃだめだよなあ・・・そんなことの繰り返しです。では馬は?この忍耐力について考えたとき・・・どうでしょうか?時として彼らの我慢強さに驚かされることがある・・・なんて経験をしている方もいるのではないでしょう。

 獣医師の場合ですが、多くは、悲しいかな、馬たちから見れば単なる「嫌われ者」でしかありません。もちろん、何もしないで近づけば、他の人と同じように接してくれますが、仕事となれば、検査や治療と称して、彼らにとって、それはそれは嫌なことばかりする厄介者です。厩舎に行って、馬房の前にくると、大半はお尻を向けます。なんと寂しいことか・・・。牧場スタッフにお願いしてつかまえてもらい、やっと触ることができる・・・そのときの従順さを目の当たりにすると、うらやましいなあと思ったりしてね。で、治療が始まると注射を打ったり、診断のためとはいえ、関節を曲げられたり、痛い部分を圧迫されたりで、辛そうにします・・・が、どうでしょう。彼らは結構長い時間、我慢してくれますよ。偉いです。治療が終わると、「ふ~!」と息を吐いて、やれやれ、なんて顔をするやつもいるので、「我慢してくれてありがとう」とお礼を言いたくなることもしばしば・・・。日高育成牧場では、今のところ調教が順調に進んでいますが、その様々な過程の中で、馬とコミュニケーションを上手くとりながら、馬に我慢してもらう場面も多かれ少なかれあります。彼らは納得した上で人間の指示に従い、我慢し続けて、やがては、どんな人の指示にも従ってくれるようになるまで成長してくれます。自分たちの方が大きいのだから、「嫌だ」と拒絶して暴れれば、辛い思いをすることもないのに・・・と単純に思うのですが、彼らはとにかく我慢をする・・・その忍耐力には脱帽なんですね・・・。

初動は大切

 写真は当歳を馬運車に乗せる練習をしている風景の1コマです。

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 血統が良く優秀な繁殖牝馬に良血の種牡馬をつけて生まれてきた子馬で、馴致も調教もしっかりできて、能力が高くても、馬運車に乗ることができなければ目的の調教場、競馬場に行くことができないし、そもそも競馬に出走することすらできません。馬運車馴致は、そういう意味で、極めて重要な練習と言えます。撮影したこの日は、飼養放牧管理の関係で、馬運車で放牧地を移動する必要があったため、慣らしの練習をしているところでした。素直に乗るもの、少しずつ様子を見ながら乗るもの、馬運車自体を怖がりなかなか近寄らないものなど様々です。それぞれの性格を汲み取りながら、馬が嫌がらないように誘導します。どんな馴致でも言えることですが、一つやり方を間違うと、その担当者の言うことを聞かないどころか、人間自体の言うことを聞かなくなったりします。競走馬としての生活をしていくからには、いろいろな人と係わっていくことになるわけですから、この人の言うことは聞くけど、他の人の言うことは聞かない・・・では困ったことになります。よく、馴致育成はおなかの中から始まる・・・と言う人もいますが、とにかく日々積み重ねが大切だということなんだという意味も含まれていると思います。

ひと芝居うつ

 人でも会社主催の健康診断があると思います。そこで必ず実施するのが採血ですね。馬も同じで、一斉の定期健康診断があります。トレセンには東西合わせて4000頭の馬がいるわけですから、中には枠場に入れても注射できない、枠場にすら入らず注射させないなど個性的な馬が何頭かいるものです。まさに獣医泣かせの馬ですが、ではこれらの馬は厩舎でも言うことを聞かないかといえば、そうでもない。むしろ逆で、大人しかったりするんですが、そういう馬は大概頭が良いんだと思いますね。人の心を先読みする能力が高いんだと思います。まだ、私が2、3年目のころだったか、ある厩舎にそんな頭の良い馬がいて、厩舎と協力して大芝居を打ったことがありました。厩舎の人には全員出てもらって通常どおりの作業をしてもらう。獣医は2人で、ファンを装い普段着でその馬の隣の馬房でその馬の顔をなでたりする。担当厩務員には飼葉をつける作業をしてもらい、馬が飼い葉桶に近づく隙を狙って、採血。馬も驚きを隠せない表情で、やられた~と思ったかどうかはわかりませんが、そのときだけは観念して採らせてくれました(その次はまただめだったんですけど・・・)馬との駆け引きは奥が深いなあ、とそのときしみじみ感じました。

 いつものように個人的な見解ですが、大人しい馬ほど、

 「人間ごときに素直になれるか!スキあらば人を出し抜いてやろう」と思っているんでしょうかね?なんでもさせてくれる馬は

 「お前が頼りないから、言うこと聞いている振りをしてあげているんだよ」なんて、上から目線だったりするんですかね?

 馬とどんな関係を築けるかは、とにかくあなたの腕次第。自分の理想の馬をつくるため、辛抱強い馬を相手に、いろいろな機会を作って触れ合いながら、駆け引きしながら勉強するといいと思います。

 今回もお付き合いありがとうございました。また来年!!

2018-11-03

JRA日高育成牧場のあしはらです。

馴致と馬場入り

 早いもので11月・・・不安定な天候が続くこのごろですが、この原稿を書いている今日は穏やかな秋晴れです。

 さて、本格的な馬場入りが始まった日高育成牧場の育成馬たち・・・。このブログがアップされるのは、ちょうど1ヶ月が経とうとしているところだと思います。厩舎単位での馬場入りをするようになったのが10月半ばでした。出だしの印象は、とてもスムーズだったと思います。担当者によれば、馴致騎乗の技術が上がっているだけでなく、年々、各牧場の当歳時からの管理技術が向上しているせいか、順調に進んでいる・・・とのことでした。自分が管理育成してきた馬がどのくらいの値で売られ、その後の競走成績はどうだったか・・・はっきりと結果が出る世界なので、生産する側は、毎年のことを振り返って反省し、来年に向けてどう改善していくか・・・の繰り返しです。他の牧場の管理方法も意識して横目で見ながら、また時には意見をくみ交わしながら、全体のレベルが上がっていくものだと思います。日高育成牧場もいろいろ試行錯誤を重ねながら、技術向上のために頑張っていますので、育成ブログなどでその様子を見ていただければと思います。

家畜保健衛生業績発表会

 研究関係ですが、先月の下旬に、全道の家畜保健衛生所の獣医さんが札幌に集まって、業績発表会が行われました。家畜でよく問題になる感染症の発生状況の報告、大流行が起こった場合の対処方法についての報告、感染症を未然に防ぐための対策方法・・・などについて報告するものです。北海道では、飼育頭数の多い牛や鶏に関する報告が多くなりますが、日高からは馬の流産に関する発表がされていました。

 また、講演会では「薬剤耐性を考える」と題して4名のパネラーにより、抗生物質が効きにくい細菌にどう立ち向かうかについての発表が行われました。薬物を使用する側の獣医師が、病気の動物を看護する側の飼養管理者が、正しい知識を持って対応しないと、薬剤耐性菌が増加して、感染症の蔓延で思わぬ事態となりかねないという内容のお話でした。とても重要な問題ですから、機会があれば、最寄りの家畜保健衛生所の獣医さんとディスカッションして勉強してみてください。

生産育成技術講座と競走馬に関する調査研究発表会・日本ウマ科学会学術集会

 年末恒例のJRA主催、共催の行事が今年も行われます。浦河、門別では、今月19,20日に生産育成技術講座が、また来月3,4日には、東京両国にて、研究発表会・日本ウマ科学会学術集会が開催されます。馬取扱いの方も気軽に参加できるものですから、是非足を運んでみてください。詳しくはJRAのHPなどで検索してみてくださいね。よろしくお願いします。

小さくても顔がある

 馬を扱う仕事をしていると、時に感染症の問題にぶつかることがあると思います。人には人特有の、馬には馬特有の感染症があります。また、人にもかかるし、馬にもかかる共通の感染症もあります。一口に感染症と称しますが、細菌とかウイルスとかに種類が分けられ、様々なタイプのものがあって、それはそれは小さすぎて肉眼では見ることのできない生物が、人や馬の体内に入り込んで悪さをするものです。私たちから見れば、どれもこれも同じに思えてしまうのですが、仮に人のように表現するとすれば、性格は様々で、住む環境も好みが分かれるし、いいやつもいれば、悪いやつもいて、いろいろな面で特徴が異なります。私たちの知る身近な感染症を一つ挙げるとすれば、馬でも人でもやはりインフルエンザでしょうか・・・。人では毎年流行しますね。馬でも日本ではこれまで2回の大流行を経験し、競馬が中止に追い込まれる・・・なんてこともありました。また馬の場合、生産地では馬鼻肺炎といって、流産を起こす厄介な感染症が有名ですね。これらの感染症の詳しいお話は別な機会で語るとして、今回は「独特な形、特徴」という点に着目したいと思います。今回は形や特徴がとっても個性的な・・・「破傷風(はしょうふう)」という感染症の菌を主人公にして話をすることにしましょうか・・・。

 この破傷風という病気ですが、皆さん聞いたことはありますか?

 人にも馬にも感染する細菌で、比較的深めの傷口などから、菌で汚染された土壌などを介して感染し、一定の条件で菌が増えると毒素を産生し神経症状を起こすものです。

 さて、この破傷風菌。どんな「顔」(形ですね・・・)をしているのでしょうか?

Photo  皆さんは細菌の形は?と言われて、頭の中で想像する時、どんな形のイメージを持つでしょうか・・・。丸?四角?楕円形・・・多くの人はそんな形を思い浮かべるでしょうか。しかし模式図を見てもらうと驚くと思いますが、破傷風菌は、こん棒とか太鼓のバチのような形をしています。面白い形ですよね。で、注目してもらいたいのが、先っちょに付いている丸い種のようなもの。これは専門用語で「芽胞(がほう)」と呼ばれるものです。ここでは便宜的に卵のようなものだと考えてください。普通は感染症を予防するというと、しっかり手を洗う、消毒殺菌はしっかりと、なんていいますが、もちろんしっかりやっていれば感染症は十分に予防できます。先ほど述べたように、例えば手足に新鮮な深めの刺し傷があって、破傷風菌が潜んでいる土壌なんかに長時間手足を入れて作業など、幾つかの条件が重なると感染することがあります。破傷風菌は「土壌細菌」などと称されることもあるのですが、その理由は、この「芽胞」の生存力が強いことにあります。ほとんどの細菌は、適切な滅菌用の薬剤の使用や一定の以上の高さでの煮沸をすることなどで死滅するのですが、破傷風の場合は、菌体が死滅しても、「芽胞」が土壌中で生き残ることがあるんです。そして時間が経つと再び菌体になるのです。したがって、多かれ少なかれ、全国どこにでも潜んでいると言われている秘密はこんなところにあったのです。

細菌やウイルスの特徴を知ることが予防につながる

 今回は「皆さんに細菌の怖さを知ってもらう」のが目的ではなく、

「皆さんにわかりやすく、細菌にもいろいろなタイプがあることを知ってもらう」ことを目的に、破傷風菌を取り上げました。

 感染症の予防は、正しい知識を持たないで、人の噂話に惑わされて、勝手な解釈で闇雲にやっても効果がありません。今回の破傷風では、

「傷口が汚染された土壌に触れなければ大丈夫」

という基本的なことを知り、その対策方法を正しく取りさえすれば怖くないことがわかったと思います。このように細菌やウイルスには、それぞれ顔と特徴があるのです。感染力が強くて手ごわいのもいれば、適切な消毒、殺菌、滅菌やっておけば簡単にやっつけることのできるものもいます。ちゃんとやっているのに上手くいかないなんてこともあるでしょう。馬取扱いの皆さんも積極的に情報を得て、正しい知識を習得し、感染症対策を身に着けることが大切です。わからないときは、周囲と相談しながら、小さな敵の正体を暴いてください。必要以上に怖がらないで立ち向かっていきましょう。

 (毎度のことながら、私独自の見解も多く含まれているので、感染症に詳しい獣医師の情報を必ず確認願います。)

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-10-04

JRA日高育成牧場のあしはらです。

胆振東部地震

 あの9.6から1ヶ月が経ちました。馬産地に近い北海道の厚真町を中心にして発生した地震は私たちを驚かせました。被災された方は、辛いことを抱えながら過ごしていることと想像しますが、協力を仰ぎながら、様々な障害を乗り越えているものと信じています。不安はしばらく続き、時には泣きたくなることもあるかもしれませんが、どうか肩に力を入れすぎず、周囲の励ましをうけながら、立ち直っていってほしいと思います。もちろん、悠長なことは言っていられないという方もいると思いますので、無責任に物はいえませんが、できるだけ早く、元どおりの生活に戻ることを願うばかりです・・・。

オータムセール

 暑かった夏もどこへ行ったのか、浦河もすっかり秋色・・・どころか冬がもうすぐ始まるよ、といった感じの冷たい風が吹くこの頃です。そんな中、好調な1歳セールが続いていましたが、10月1~3日に開催されたオータムセールも盛況で終了しました。10月中旬にはJRA育成馬も全頭そろっての馴致調教がスタートです。とにかく、順調に行くことを願うばかりです。育成の様子は、JRAのブログにも掲載されますので、お手すきのときに見ていただければと思います。

秋の町民乗馬大会、学会

 先月末になりますが、毎年恒例の浦河町民馬術大会が開催されました。障害飛越競技、部半運動、ジムカーナ競技、チーム対抗競技など、大人から子供まで幅広い年齢層の参加者が、和気藹々とした雰囲気の中で行われる乗馬大会です。終了後も表彰式、焼肉大会で盛り上がっていましたよ。

 学会関係ですが、こちらも先月末に札幌で開催された北海道獣医師会主催の学会に参加してきました。熱の入った質疑応答の場面もあり、いろいろ勉強になりました。馬産地の獣医師もたくさん参加していましたので、どんな演題があったのかは、馴染みの獣医さんに効いてみるといいと思います。

温故知新

 私がJRAに入会したのは、ちょうど昭和と平成の境目でした。今年は平成30年で来年からは新元号になるのですから、あっという間に時間が過ぎるものだなあと感じます。馬取扱い、獣医、装蹄師・・・馬の世界でも、いろいろな技術職と呼ばれる職種がありますが、いろいろな形で洗練された「ワザ」が継承されていくものですよね。一方で、時代の変化の中でいつの間にか消えていくものもあると思います。私は獣医職ですが、例えば皆さんにも身近で整形外科診療に欠かせない「レントゲン診断」一つをとっても、私が新人の頃は手現像で、現像液、定着液の調整をして暗室にこもって赤いライトを頼りに写り具合を観察しながら仕上げるなんていう面倒な作業がありましたが、今では撮影した瞬時に手元のスマホやパソコンに画面が写るのですから・・・。時代の流れについていくのも大変です。

 競走馬や育成馬の馬取扱いの人の場合、いろいろな病気の治療がある中で、筋肉痛の治療や疝痛の治療で獣医師とかかわる機会が多いと思います。私と年齢的に近い(50代・・・?)方ならピンと来ると思いますが、臨床現場にいた頃、これらの治療で欠かせないものの一つが(電気)針治療でした。人と同じように、馬にも様々な疾病に効果があるとされる体のツボがあって、馬も症状に応じて針治療をしたものでした。皆さんの中で韓国ドラマの時代劇「馬医」を見たことのある方・・・いるのではないでしょうか。その中でも、針治療の場面がたくさん出てきます。もちろん今でも使われているものの、きっと私が診療をしていたころに比べると、実際に針を刺す治療は減っているかもしれません。しかしながら、今後すたれてしまうのか、再度見直されて流行るのかは不透明です。

 針による治療方法の良し悪しを議論するのがここでの目的ではありません。昔を振り返るとこんな治療法が盛んに行われていて、その治療効果について考えてみたとき、こんな利点もあったのかと振り返る・・・また、次の世代の人に語り継ぐのも大事ことなのではないかと・・・そう思い針を取り上げました。今回は、ごく簡単にですが、疝痛の針治療を例に挙げて少しお話してみましょう。今でも専門で治療されている方もいらっしゃいますし、いろいろなやり方があると思いますので、いつもどおり、私独自のやり方、解釈であることをご了承下さいね。

Photo  写真を参考にしながら・・・まずは万能ツボ、百会(ひゃくえ)を探しましょう。馬の背中の中心、正中線と呼びましょうか、その線を、骨の感触を確かめながら背中から尾に向かって指で押しながら少しずつ後ろの進んでいってみましょう。ちょうど真横が腰角になるあたりまで進んでいくと、急にやわらかくへこむ所があるはずです。そこが百会になります。百会は動物によってその位置は異なり、例えば人は頭にあるようです。様々な治療に有効なツボとも言われています。まずはそこに1本刺すとしましょう。

 次に通腸(つうちょう)です。いかにも疝痛に効果のありそうなネーミングですね。通腸は左右に2箇所あります。一つ目は腰角の骨だと一番感じる部分と、背中の正中線を垂直に結んだ線の中間にあります。そして二つ目は、腰角から地面と水平に前方に辿って、肋骨の骨を感じるところに達したら、そのポイントと正中線を垂直に結んだ中間にあります。通腸は一、二と称して左右で4ヶ所ありますから、百会との合計5ヶ所のツボに針を刺して、お灸をしたり、電気治療で刺激したりすることで、腸の動きを促すことができるとされています。文章で書くとすごく難しく感じますが、写真を参考にしながら、なんとなくイメージしてみてください。昔の馬の診療所では電気治療と同時にお灸もしていたので、治療室内が煙で充満していたのをよく覚えていますね。懐かしいです。

 針を刺すときは位置だけ確認して闇雲に刺すのではなく、注意深く「しんかん」を確かめながら進めます。ツボに入っていれば、皮膚がぴくぴくっと反応するので、その感触を最低でも2回見つけながら、探りながら針を進めます。ツボに入っているときは、電気治療で針がピクピクッと良く反応し、外している時との動きの違いがよくわかりますし、何より馬が気持ちよさそうな顔をします。そのほかに私の師匠は、分水(ぶんすい)と言って鼻先にあるツボに刺したり、通腸の近くにある関元愈(かんげんゆ)というツボに刺したりして治療していました。私はそこまでやったことはありませんが、いずれも疝痛に効果のあるツボと言われています。まずはツボを刺激して、浣腸や輸液などの治療を平行してやっていました。

 馬取扱いと針治療は、直接は関係ないですが、筋肉の位置や働き、臓器の位置を覚えるのと同時に、ツボの知識も頭に入れてことは決して損ではないと思います。ベテランの獣医さんをつかまえて、いろいろ教わるのも悪くないでしょう。皆さんの身近なことで言えば、馬装具が挙げられるでしょうか。どんどん進化して行っていると思いますが、きっかけがあれば、古い馬装具について調べてみて、どんな利点があって使われていたかを知るのも悪くありません。JRAでは、東京府中や横浜根岸に博物館もあるので、近くの方は訪ねてみてはいかがでしょうか?

 「ふるきをたずねてあたらしきをしる」ですね・・・。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-09-01

JRA日高育成牧場のあしはらです。

育成馬入厩

 市場は10月のオータムセールを残すだけとなりました。そんな中、本年度のJRAにおける1歳馬の購買は予定どおり進んでおり、日高および宮崎育成牧場では、サマーセールまでに購買した育成馬たちが入厩しました。日高入厩組は8月30日に、また宮崎入厩組は8月29日に北海道を出発し、8月31日に到着したようです。早速プレ馴致から取り組んでいく予定で、それぞれの馬のコンディションをよく観察しながら実施していくことになります。ブラッシング、パッティング、馬房内回転、号令、ストラップ馴致、引き運動などなど・・・。順調に行くもの、足踏みするもの・・・いろいろありそうです。9月から約7ヵ月半、長いようで短い期間ですが、4月のブリーズアップセールに向けてそれぞれの育成馬がどんな風に成長していくのか楽しみです。詳細はJRA発信の育成馬ブログなどで見ることができると思うので、注目していただければと思います。

離乳

 一方、繁殖関係ですが、お母さんと子馬のお別れの季節を迎えました。離乳は概ね生まれてから6ヶ月前後、または体重が200kg前後に達したことを契機に実施しますが、そこは牧場の考え方もいろいろです。日高育成牧場では、上記を基準として、今年は8月に3回に分けて実施しました。夏は研修生がたくさん訪れるため、できるだけ多くの人に離乳の現場体験をさせるという事情もあります。その方法はいろいろですが、離乳が近づいたら、まず、リードホースの役目を担うベテランの雌馬を入れて慣らした後に、早く生まれた順に、放牧中に母馬を連れ去る方法をとっています。

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 離乳直後は、母馬、子馬ともに不安に陥りやすいです。母馬は乳房が張って痛みがあったり、子馬がいない不安があったりで熱を出したりします。また食欲も極端に落ちることがあるので、妊娠中の馬は注意が必要。子馬も不安で、必要以上に放牧地を駆け回ったり、食欲が落ちて体重が激減したりすることがあるので、注意して観察する必要があります。

 母親に甘えていた子馬も、これからは若馬と呼ばれるようになります。大人に向けての第一歩ですね。馬取扱い初心者の皆さんが研修を終えて、指導者の元を離れて独り立ちするのと同じですね。厳しい冬を乗り越えて、たくましく成長してくれることを願うばかりです。

首を長~くして考えてみよう

 今回は馬の長い首に関連して、いろいろ考えることにします。キリンほどではありませんが、馬もそれなりに長いですよね。そんな長い首だからこそ、気になることって・・・ありませんか?ごく簡単な内容で申し訳ないですが、筋肉のこと、呼吸のこと、そして食べることに関する気になること・・・の3点に絞って少し書いてみますね。へたくそで恐縮ですが、写真に添えた模式図も参考にしてください。要点は心得ているつもりです・・・(汗)。

意外に重い頭と長い首

 アスリートである馬の診療をするとき、獣医師は「触診」をとても大切にします。同じ馬でも競走馬、乗馬など用途の違いをふまえて、頭の付け根から尻尾の付け根まで、順番に触っていきます。で、具体的に何処が筋肉痛になるのかなんですが・・・たとえばお尻。解剖学用語で言うと中臀筋(ちゅうでんきん)、半腱・半膜様筋(はんけん・はんまくようきん)という筋肉があって、そこがよく痛くなります。(俗に後ろ側の分を指して「べら」が痛くなる、なんて表現する人もいますね。)また、背中は特に飛越で負担がかかりやすい障害競走の競走馬で痛くなることが多いです。押すと目がカッと開いて、キュッと筋肉を硬くして痛そうにしますよ。そして、首。一番痛みを発しやすいのは上腕頭筋(じょうわんとうきん)という筋肉です。(「ハッキン」が痛くなる、と言う人もいますね。)疲労が蓄積すると、ちょっとつかんだだけで痛がります。首はとても長いので、頭の付け根から肩先のところまで、順番に丁寧に、押したりつかんだりして感触や反応を確かめますが、意外と頭の付け根が激しく痛くなることが多いです(模式図を参照)。

 皆さんの中で自身の頭の重さってどのくらいだろうと考えたことがある人はいるでしょうか?頭って結構重いんですよ。なので、あの長い首で重い頭を支えるちょうど付け根の部分に負担がかかるんですね。走れば上下運動も加わりますからなお更です。また後肢は「股関節」(骨と骨)で体と肢がつながっているのは人と同じですが、前肢は人のように「肩関節」(骨と骨)ではなく、筋肉だけでつながっているのが馬の特徴で負担も大きいです。馬を管理する上で、この2点を常に頭に入れておくといいと思います。

 実際に何度も触ってみるとわかるようになるのですが、馬は「痛い」とは言ってくれないので、押したりつかんだりしたときの硬さで判断することができます。先に書いたように、痛いとキュッと硬くします。その感触を自分の指に教え込むのは価値があると思いますよ。そうそう、痛いところを急に刺激すると、馬は悲鳴を上げる代わりに怒って蹴るので十分注意してください。また時々、触るのが嫌だとか、痛いふりをする馬もいるので、その辺も見破ることができればいいですね。そんなときは、こちらも痛くないところから触って、裏をかくのです。騙されないようにしましょう。

Photo_2 空気の通り道と長い首

 頭は重いだけでなく細長いのも特徴です(馬面ですね)。ということは、首も長いわけですから、物を食べたときや、息を吸うとき、食べ物や空気が胃や肺にたどり着くまでの距離も長いということになります。

 皆さん小さいころ一度は鼻血を出したこと・・・ありますよね。多くの場合、鼻の周囲への刺激で、血管が傷ついて血が出ることが多いと思います。もちろん馬でも同じようなことはありますが、まれに調教中や競走中に、比較的量の多い出血をみることがあります。

 人では、とりあえずティッシュを鼻の穴につめて、上のほうを見ながらじっとして、「まあ大丈夫かな」などとつぶやきつつ、安静にして様子を見ることが多いかも。ところが馬の場合は肺から出ていることがあります。ここでちょっと考えてほしいことが・・・。鼻の穴から頭と首の付け根にある喉の部分までが約40cm。そこから気管となり、肺の入り口までの距離は、馬の首の長さぐらいありますから、鼻先から通算すると、1m30~50cmくらいにはなりそうです。そんな奥で出血した血液を私たちは馬の「鼻血」としてみているのです。馬にとっては大変な出来事なので安易に考えないことです。そんな長い空気の道は、直接外気と触れ合っているので、何かの拍子で感染を起こすことも・・・。また、気管と肺の境目が少し低くなっていて、そこの部分に細菌がたまりやすいとも言われています。呼吸器の病気を起こしやすい馬は、馬房にいて牧草を与えるときは、吊るさず地面に置くことで、首を下げる機会を多くして、気管の細菌がたまりやすい部分が底になる時間を少なくするといい、なんていう人もいます。こうして考えると、解剖学的な知識っていうのも、とても重要なんだなと思いますよね。

食べ物の通り道と長い首

 おなかがすいたとき、水やお茶を飲まずにおにぎりに夢中になってがっつくと起こるのが「のどづまり」ですね。人では胸をたたきながら慌てて水を飲んで「ああ、苦しかった」なんていって収まりますが、馬もこの「のどづまり」があるんですね。首が長い分食道も長くなっているので、慌てて食べたときに発生する確率は人より高いかもしれません。何も食べない時間が長ければ長いほど起こりやすいですから、特に競馬の直後、激しい調教の直後などは、水を十分に飲ませてから、少しずつ牧草や飼葉を与えるようにしましょう。私も何度も治療の経験がありますが、食道専用のホースを鼻から送り込み、首をたたきながら、口で吸ったり、水を送り込んだりを繰り返して、大変な思いをしなければなりません。注意して管理するように心がけましょう。

 病気については、機会があればまた触れるとして、首が長いからこその特徴・・・いろいろありましたね。このように馬の体の特徴に興味を持って観察すると、いろいろな疑問がわいてくると思います。今回は首をターゲットにしましたが、他にも気になること、もっと詳しく知りたいことあると思います。そんなときは、なじみの獣医さんと話してみてください。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2018-08-09

JRA日高育成牧場のあしはらです。

セール・札幌開催

 7月前半は、ぐずついた天気が続いた北海道。そして後半はむしむしした感じの日が続きましたが、8月に入りようやく落ち着いてきた感じ・・・。しかしながら、西日本その他の地域での大雨は甚大な被害でした。その後も気温40度に達する酷暑・・・。復旧作業も大変そうで、この先、日本はどうなるかと心配になる今日この頃です・・・。そんななか、この原稿を書いている今日は、久しぶりにからっとして丁度いい天気です。離乳が近づく子馬たちも元気に過ごしています。また、先月行われたセールは好成績で無事に終了しました。今月はサマーセールが行われます。昨年と少し変わったところがあって、5日間の初日はサマープレミアムセールと称して実施されますね。どんな結果になるのか今から楽しみです。競馬は函館が終了し、札幌開催となっています。毎年有力馬の集まる札幌記念も楽しみですが、やはり2歳馬の戦いぶりが気になるところ・・・。北海道の夏は短いので、皆さんも存分に楽しんでくださいね。

サマーセミナー・装蹄研修

 7月後半から8月は恒例の学生研修です。将来、馬の獣医師を夢見る獣医大学の学生や装蹄師を目指す学校の生徒が研修に来ています。

Photo

Photo_2  北海道以外の地域では、勉強に必要な馬を確保することが難しい所も多いですが、参加しやすいように夏休み期間に開催して、全国各地から北海道浦河に来てもらって研修を実施しています。馬に対する情熱は、馬取扱いの仕事を目指す皆さんと一緒で高いです。同世代の獣医師、装蹄師、栄養学の専門家などと知り合うことも重要だと思うので、何かの機会でチャンスがあれば話をしてみるのもいいかも・・・。大事な馬を管理する上で、いろいろな情報や技術を習得できると思います。私も、機会があれば学生諸君に、いろいろ教えてあげたいと思っています。

貴重な機会こそ大切に

とても珍しいことが起こったとき、

「それはたまたまだから」

「時々起こることだけど、普段はほとんどないから気にすることないよ」

と言う人もいれば、

「いい経験をしたね」

「めったにないことだからよく覚えておくといいよ」

なんて、言う人もいます。

 皆さんは馬を扱うのが仕事ですから、これまで受け継がれてきた技術を身につけてきて仕事をしているわけですが、時として一般的な理論にそぐわない馬に遭遇して、うまく扱えない、乗れないなどの壁にぶち当たるかもしれません。それをたまたまだと受け流すのか、貴重な体験と受け止めて記憶にとどめておくのかは人それぞれです。

 私は獣医としての経験しかないので、その関連の話しかできなくて申し訳ないのですが、若いとき、競走馬の麻酔師だった頃の話をすることにします。馬取扱いに直接結びつく話にはなりませんが、とりあえず読んでいただき、何かのきっかけぐらいになってくれれば・・・と思います。

 私はトレセンの現場にいた頃・・・一般診療や競馬開催とは別に馬の麻酔を担当していました。例えば骨折や疝痛でどうしても手術が必要になったときに、その馬に安全に麻酔をかけて手術のサポートをするのが仕事でした。薬を体内に入れて、手術中に馬に痛みを感じさせないように眠らせる・・・簡単に言うとそんな感じの仕事です。眠らせている間に手術をすると簡単に言いましたが、実はとても難しいことです。あまりにも深い眠りにしてしまうと薬の影響が強くなりすぎて手術中に問題を起こす可能性が高くなるし、かといって浅い眠りでは、痛みを感じたり、途中で目覚めて暴れたりする危険性があります。その「丁度いい」ところで調節するのが難しいです。また、麻酔は眠らせるだけが仕事ではなくて、麻酔から安全に目覚めさせるのも重要な仕事になります。いくら素晴らしい手術をしても、目覚めるときに興奮して暴れて、手術とは関係ないところを怪我すれば本末転倒だし、逆に眠りから覚めないと大変なことになります。麻酔師はとにかく「丁度いい」ところで外科医が仕事しやすい環境を作るのが重要になります。馬に「丁度いい」麻酔をかけるには、麻酔薬などに関するいろいろな知識と数値データをインプットしていないとできません。しかし相手は生き物で、競馬という戦う世界でストレスのかかった環境下に置かれている競走馬なので、頭に入ったデータが時としてマニュアルどおりに使えないこともしばしば・・・。麻酔中の「かかり具合」唯一知ることのできる変化は目の動きと唇の色くらいしか見ることができませんが、その微細な変化を診ながら、限られた情報を瞬時に分析しながらダイヤルを握ります(ダイヤルとは、麻酔薬の濃さを調節するダイヤルのこと。麻酔の世界では麻酔をかけることを「ダイヤルを握る」と表現することが多い)。

 以降は私の主観でものを言うことになることを前置きしますが、競走馬ではある条件がそろうと、麻酔から目覚めるときに馬が異常な行動をすることがあります。おそらく1000頭に1頭くらいの確率で起こることだと個人的には思うのですが・・・。

 ある日のこと、手術を受ける馬の事前情報をいつものように麻酔の準備をしながらチェックしていたのですが、

 「ん?この条件・・・どこかで経験しているな。たしか、昨年の同じ日に麻酔をかけた馬とまったく同じだったような・・・。」

 調べてみると、馬が違うだけで、それ以外で重なる条件がたくさんあったのです。いつも「同じ条件はないかな」と構えて麻酔を行っているわけでもないのに、その日はなぜか、虫の知らせと言えばいいのでしょうか・・・何故か気になる日だったんですね。で、気にはなるものの、いつもと変わらず麻酔をかけて、何事もなく手術は終了して、目覚めさせるための部屋で馬が起き上がるのを待っていました。

 「俺の勘が間違ってなければ・・・異常行動を起こすかも・・・」

と、考え始めるか否かのときに、馬が予定より早く目覚める気配を見せました。

「当たった!」そんなことを考える余裕もなく、馬を落ち着かせるための処置に取り掛かっていました。一瞬大変でしたが、大事には至りませんでした。後になって、

「たまたま起こることも、ちゃんと記憶しておけば後で役に立つな。」と思いました。

 麻酔は身近なことではないので、皆さんにとってはピンと来る話にはならなかったかもしれないですが、めったに起きない偶然も時と場合で必然になるということを言いたかったのです。馬を扱う皆さんも、「今日はどうして思ったとおりにならないんだろう」と悩むことも多いでしょう。その経験は、またいつか来るかもしれないから、上手くいかなくて落ち込むのではなく、貴重な経験として大事にしてください。苦労した経験を糧にして、ある日、思いがけないタイミングでその経験が役に立つこともあると思います。相手は感情を持つ馬ですから、思い通りにならなくて当たり前。根気強く向き合っていくといいと思います。落ち込まず、粘りの精神で踏ん張りましょう!

 今回もお付き合いありがとうございました。