JRA日本中央競馬会 日高育成牧場

2019-11-01

JRA日高育成牧場のあしはらです

はじめに・・・このたびの台風19号、21号では多くの方々が被害にあわれました。本当に心が痛みます。辛い思いをされている方が多くいらっしゃるとは思いますが、どうか、周りの協力などを受けながら、一日も早く日常の生活を取り戻せるように祈っています。

落ち葉の季節

 11月に入り、寒さも徐々に厳しくなってきました。木々は紅葉、道路、放牧地には落ち葉が積もり、時折吹く突風も肌に冷たく刺さる感じです。そんな中で日高育成牧場の育成馬、当歳馬、そして繁殖牝馬はそれぞれ元気に過ごしております。育成馬はセプテンバー入厩組も概ね騎乗するまでになり、全馬そろっての調教ができつつあります。当歳の半数は体重が300kgを越えるまでに成長し、馬らしくなってきたなあと言う感じです。これから寒さで地面も硬くなり、氷が張って雪が積もってくると、足元への影響にも注意しながらの管理となってきます。何事もなく過ごしていってほしいと願うばかりです。

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 たびたび話題になっている豚コレラ、アフリカ豚コレラ・・・。皆さんも一度はニュースなどで聞いたことがあるのではないでしょうか。私も情報を得るべく、10月下旬に開催された、家畜保健衛生所の方が集まって毎年実施している業績検討会に参加し話を聞いてきました。感染源となるイノシシ、小動物を中心とした野生動物の侵入をどう防ぐかが大切であり、それがどんなに難しいことなのか・・・いろいろ考えさせられました。そして私たちも決まりをしっかり作り、防疫対策を立てて、規則正しく行動しなければいけないことを痛感しました。豚コレラは、徹底的に対策を講じても、伝播力が強くて再発生することがあるそうです。これからワクチンの使用を含めた対応について、関係者で話し合いを重ねていくことになりそうです。またアフリカ豚コレラの場合は、ワクチン開発も難しいそうで、より徹底した対策が求められるようです。私たちが管理する馬の場合でも防疫対策は重要です。対岸の火事と思わず、しっかり管理をして伝染病から愛馬を守っていきましょう。

馬フォーラム オータムセール 当歳品評会

 先月のことになりますが、機会をいただいて帯広畜産大学で開催された馬のイベントに参加してきました。JRAも何か協力できれば・・・いうことで、ターフィーの馬術ショーや乗馬体験などのイベントを開催しました。そのほか他団体による体験乗馬会、クイズラリー、馬の学校ミニ講義、馬の介在活動関連資料展示、馬の骨格標本展示などがありました。また夕刻には、馬の国際講演会と称して、フランスと韓国から講師を招いて、馬の利活用に関する講演も行われました。このような催しは、馬産地である北海道に特化するのではなく、いろいろな地域で類似のイベントが開催され、馬が今以上にいろいろな場所で身近な動物になるのが理想です。来年以降も様々な地域で馬のイベントが開催され、盛り上がることを期待したいと思います。

 そして、市場では1歳馬最後のオータムセールと繁殖セールが開催されました。なかなかの好成績だったようで、1歳セール全体では昨年並みの成績だったとか・・・。また、浦河地区で毎年開催している当歳馬の品評会も先月末に行われました。今年は9頭の参加で、各牧場から選抜された当歳馬を見てまわりました。代表者の細かいコメントを聞きながら、いつも勉強になる品評会。今後も継続して実施してもらいたいと願っています。

見る触る透かしてみる

  「先生、うちの馬、あしはれているんだけど、ちょっと診てくれる?」

そんな風に往診を頼まれるたびに、ドキッとしていた駆け出しの頃・・・。

病気の馬の診療では、競走馬ということもあってか、四肢の診察をする機会がとても多いです。市場の下見などでは、購買を検討している馬の屈腱部を触ったり、少し腫れている部分の状態を念入りに確認したり・・・なんて光景を見かけることが多いと思います。また、調教のあとや、レース前、レース後などでも、管理している調教師さんが肢を触って状態を確かめる場面も日常的に見ます。言うまでもありませんが、競走馬の肢は細くデリケートで、強い調教やレースではかなりの負担をかける部分ですから、ちょっとした変化でも見逃さず、触って異常がないか確かめることが重要になります。

そこで今回は、馬に関わる多くの人が、どんなところに注意して、どんなことを考えながら肢を触っているのか・・・ごく簡単に触れてみたいと思います。専門的な突っ込んだお話はいっさいしません。ごくごく簡単にまとめて書いていますので、どうぞ気楽に読んでいただければと思います。また、いつもどおり私独自の考え方が入ります・・・ご了承ください。

見た目

まずは見た目から・・・。前から横から後ろから大雑把でいいので、よ~く見ることです。先輩に習ったことをあれこれ考えながらだと、頭の中でうまく整理できないですから、ポイントを1つに絞って、例えば「いつもと比べて腫れているところがないか」という一点だけに集中して単純に観察してみましょう。腫脹の程度は極わずかの場合もあります。また個体差もあるので、普段から多くの馬を見て比較することで慣れる必要があります。少し時間がかかるかもしれませんが、アドバイスなどもらいながら、まずは目を慣らすことから始めてみてください。

やはり各部位で押さえておくポイントはあります。腕節や飛節では前面・・・。ちょっとした腫れでも見逃さないことです。骨折、感染症などが疑われるケースもありますが、些細な怪我が原因でも大きく腫れている場合もあります。また、紛らわしいケースもあって、前腕部や下腿部などに炎症があって腫れていたものが、時間が経って、腕節飛節に腫脹が下がり異常があるように見えることもあります。そして、過去に腫れを認めたことのある関節では、落ち着いてしばらくたっても、ひかずに残っていることもあるので、新しいものか古いものか見比べる必要があります。

 管部では前と後ろでは、腫れの意味合いが大きく異なりますね。前方や側面の腫れではケガや骨の炎症などが疑われることが多いでしょう。しかし後ろの腫れでは、腱靭帯の炎症が疑われます。それぞれ腫れている箇所、程度、痛みなどを詳細に調べて、時に獣医師のアドバイスや治療を受けながら判断する必要があります。なので、前よりは後ろの腫れに注意して観察するべきですね。競走に大きな影響を及ぼす可能性のある屈腱や繋靭帯などがありますから、場合によっては超音波検査などで状態を詳しく知る必要性も出てきます。

感触

 ひととおり見終わったら気になる部分をよく触ってみましょう。先に触れたように、市場の事前下見などでは、調教師や購買者の皆さんが、足元を念入りに触っている姿を見ますが、誰もが触った自分の感覚をとても大切にします。感じ方は人それぞれです。これも初めは人のアドバイスを聞きながら一緒に触って、第一に熱感を確かめ、続いて気になる腫脹の感触を確かめてみましょう。先ほど述べたように管部の後ろ側、屈腱、繋靭帯部分は特に重要です。そして、今はレポジトリーの提出も必須の時代ですから、レントゲン写真の確認をしっかりしつつ、腫脹した部位の感触を確かめます。

感触もいろいろな表現の仕方がありますが・・・例えば骨のような硬い腫脹、刺激が強すぎると破れてしまいそうなやわらかい腫脹、中に水が溜まっているような弾力のある腫脹、押すとへこんだままの腫脹などなど・・・。経時的に炎症がひどくなっていく途中の腫脹なのか、ある程度峠を越えて、炎症が治まっていく途中の腫れなのか・・・そのあたりの判断は非常に重要ですが、これらは日頃の経験がものをいうところです。どんな感触なら大丈夫なのか、要注意のときの感触はどんなものなのか・・・いろいろな馬を触って、人にも聞きながら、自分独自の感じ方を身につけましょう。

透かしてみる

 透かしてみる・・・とは変な言い方ですが、これは、ある程度経験を積んだ人に勧めたいことで、要は「解剖」の勉強をしてもらいたいということです。骨の名前、骨の位置や部位の名前、筋肉や腱の名前、筋肉の位置や始まりと終わりの部位など・・・。沢山あって覚えるのも面倒くさい、難しいと思う人も多いですが、最初は自分の覚えられる範囲でいいと思います。運動に関係する部分に限定してしまえばそんなに多くはならないはずです。一度覚えきってしまえば、肢のよく骨折する部分や炎症を起こしやすい腱靭帯部分をより理解しやすくなるし、皮膚の奥が透けて見えるようになってきます。

 

少し、薄っぺらな内容だと思うのですが、とにかく一つのきっかけにしてもらえればという思いで書いてみました。見る、触る、透かす・・・これが大切です。今回は触れませんでしたが、蹄も馬にとっては重要な部分です。馬を見るときは、あわせて理解したいものですが、また、別の機会にお話できればと思います。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-10-03

JRA日高育成牧場のあしはらです

セプテンバーセール

 皆さんお住まいの地域は台風大丈夫でしたか?千葉の皆さんは停電が長引いて大変でした(今でも完全に復旧していないところがあるようです・・・)。予想以上の風で、思わぬ被害にあった場所も・・・。北海道は台風とは無縁だったはずですが、最近では異常気象で台風は大型になり、進路も多様となって襲ってくるようになりました。線状降水帯なんていう単語も日常的になり、50年に1度のこれまで経験したことがない大雨、川の氾濫・・・なんてニュースが流れることも珍しくなくなりました・・・。直前に危機が迫らないとなかなかできないものですが、防災に関する様々な知識を持って、できるだけの備えが必要な時代だと思います。

 さて、市場ですが、今年初の試みであるセプテンバーセールが先月開催され盛況のうちに終了ました。昨年との比較はできませんが、周囲での評価を聞いたところでは、高い売却率で好成績だったと言えるようです。JRAも予定の頭数を購買しました。これで今年の1歳市場はオータムセールを残すのみとなりましたが、私はこちらも視察する予定です。

 そして育成馬ですが、サマー以前の入厩組は、順調に馴致が進んでいます。早いものでは、9月中旬からドライビング、ペン騎乗に入っているものもいます。この原稿がアップされる頃には、800m馬場での騎乗も始まっている馬もいるかも・・・。また、セプテンバー入厩組も早々に馴致を開始し、サマー以前の入厩組に追いつくべく頑張っています。各育成担当者は、馬の状況に合わせながら、あせらずに進めている感じですかね・・・。

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Photo_4 当歳も離乳から約1ヶ月が過ぎたところですがすくすくと育っています。毎年、雪が降り始めるまでの間は、場内でも比較的草の質のいい放牧地で様子を見るようにしています。はじめは、離乳に放牧地の移動が重なって、ストレスを感じている様子の馬もいましたが、すぐに落ち着き、体重が300kgを越える馬も出てきました。とにかく、若馬の成長で大事なことはバランスですので、馬体をよく観察しながらしっかり管理していきたいと思っています。

大丈夫なほうから

「あしはら!跛行の馬を見に行くぞ!」

 駆け出しの頃・・・いろいろな先輩に連れられて診療に行ったものでした。

 ある日のこと・・・右前肢の球節の部分に異常を認めるとのことで診療していたときの話です。骨折なのか、腱靭帯の炎症なのか、ただ腫れているだけなのか・・・微妙な症状を示す症例で、とりあえずは、

「触診してみよう」

 と、いうことになり、診察が始まりました。触診は獣医師によって、やり方が違うものですが、その先輩は比較的ゆっくり丁寧に行うタイプの人でした。必要な聞き取りを行い、歩様の確認をしたあと、先輩はおもむろに左前肢から触りだし、押したり曲げたり叩いたり・・・

「ん?疑っているのは右なのでは?」

 と、思いながら診療の様子を見守っていました。左前肢の球節、管部、腕節などの触診をじっくり行い、ようやく右前肢の触診に移りました。そして球節を曲げて、馬が痛いそぶりを示したところで、レントゲンを撮って骨折を確認して、一連の診療が終わりました。私は帰りの往診車の中で聞いてみました。

「どうして、右と疑っているのに左を念入りに調べたんですか?」

 すると先輩は、

 「人でも馬でも、いきなり痛い所を触られたら嫌だろう?馬は何処が痛いのか言ってくれないから、時に触られて嫌がっているのか、痛くて嫌がっているのかわかりにくくなる馬もいる。だから、俺は大丈夫なほうから触って馬の反応を見ることにしている。」と・・・。

 もちろん、獣医師によって診療方針に違いがありますし、跛行のケースにもよっても違いが出てくると思うのですが、自分も多くの経験を重ねていって、あとから「なるほど、時には、反対の肢から診ることも大事なんだな」と思うようになりました。跛行診断は本当に難しくて、壁にぶつかることが多いのですが、そんなときこそ「振り出しに戻り、大丈夫なほうから触ってみて原因を探っていこう。」と考えるようになり、診療の幅が出るようになりました。若い頃の経験は貴重なものばかり・・・。今でも駆け出しの頃の記憶の一つとして鮮明に残っています。

「皮膚病が多くて嫌な季節だね。」

 特に足元がじめじめとした環境にさらされやすい季節は、球節から下の部分の皮膚病に悩まされる馬が増えます。

「あしはら!この馬の皮膚病どう思う?」

 そう先輩に言われて診たときのこと・・・両後の球節以下に皮膚病があり、特に左に比べて右後肢の皮膚病が酷くて、触ると激しく痛がる感じでした。

 「でも両方を比べると、見た目はあまり変わらないように見えるよな・・・強いて言えば、黄色く膿んでいるところがあり、痛さも違うような・・」

そんな感じで悩んでいると

 「先生、前にもらった薬の効きが悪いから、違うの作ってくれる?」

とは厩務員。詳しく聞いたところ、前に処方した薬では、痛いほうの肢にはあまり効いてないということらしい・・・。でも痛みの強さ以外では、左右で大きな違いはないよなあ、どう処方しようかと思っていたところに先輩が

「痛みの強い肢と、比較的大丈夫そうな前肢も含めて見比べて何か違いを感じないか?」

しばらく、4本の肢を眺めながら、ヒントをもらいつつやっと気がつきました。

「白斑があるかないかの違いか!」

 その馬は、右後肢だけ球節以下に白斑のある馬だったのです。

 一般に、馬の特徴の一つである肢の「白斑」は、まったく珍しいものではありませんが、白斑のある肢に皮膚病が起こると、たちの悪い細菌や真菌に侵されることが多いというのは事前に教えてもらっていたことであり、大事なことでした。したがって、その原因となる菌に合った抗生物質などを皮膚病の薬に正確に混ぜないと治りにくいものだったのです。うっかりというか、間が抜けているというか・・・患部だけでなく、大丈夫なほうの特徴とよく見比べて対応するべきでした。 

 少し、わかりにくい例だったかもしれませんが、わからなくて行き詰ったときは、あえて、大丈夫なほうの馬から、大丈夫そうな他の部分をじっくり見る、見比べることも大切だといいたかったのです。これは馬に乗るときでも似たようなケースがあるのではと想像します。馬にも個性があり、乗った感触は千差万別でいろいろ違うと思います。乗りやすい、乗りにくい、癖がある癖がないなど、ベテランの人が感じる微妙な違いも、駆け出しの人にはわからない、そして壁にぶつかる・・・そんなことがあると思います。見て聞くだけではなかなか身につかないでしょう。

   大丈夫なほうを見て、見比べて勉強するべし

 人によって、技術の習得に時間がかかる人、かからない人・・・いろいろで、時に身につかなくてあせることもあるでしょうね。でも見方を変えれば、それもあなたの個性ですよ!しょんぼりしないでください。そういう時は、基本に戻り、なんでもない馬を眺めて、人のアドバイスももらって、自分なりのペースで壁を打ち破れるように頑張ってみればいいのです。知らないことがあることに気づいてよかったとポジティブにとらえればいいのです。扉はいつか開きます!

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-09-05

JRA日高育成牧場のあしはらです

サマーセール サマーセミナー 北見にて

 秋風が吹きはじめ、浦河の夏も終わりました。つい最近まで、暑い暑いと騒いでいたのが嘘のようです。このまま寒くなっていくのでしょうか・・・。

 さて市場。先月下旬になりますが、サマーセールが予定どおり開催されました。私も4日間通して行ってきました。昨年に引き続き売却率、売り上げともに好調だったようです。JRAも当初の予定の頭数を購買し、残りは新設のセプテンバーセール等で揃える予定です。この原稿がアップされる頃には馴致も始まっているはず・・・。本格的な育成のシーズンに突入したという感じです。

 また、毎年恒例の獣医系大学の学生向けサマーセミナーも先月末に実施しました。今年も全国から選抜された6名の学生が来場し、私も講義などを行いました。実習は繁殖牝馬、子馬の収放牧、手入れ、厩舎作業、乗馬体験など、馬取扱いの皆さんの仕事と共通するところが多い内容のものでした。大学では馬に関する講義や実習はほとんどないことから、私たちが頑張っていろいろなことを教えていかなければ・・・と感じています。

Photo_3  そして、例年9月に開催される北海道獣医師会の地区学会ですが、今年は8月28,29日の日程でオホーツクの北見での開催でした。オリンピックなどですっかり有名になったカーリング、そして焼肉、ハッカ、帆立などが美味しい町ですね。帯広の学生の頃に何度か訪れて以来なので、本当に久しぶりでした。あの頃はまだ、ばんえい競馬が旭川、岩見沢、帯広、北見の4場で行われていましたから、北見も馬とのつながりは深い土地柄です。学会では馬に関する発表も盛りだくさんでした。また、北見工業大学が会場だったため、今話題のAI・人工知能と医療に関係したシンポジウムも行われ好評でした。内容については、学会に参加した皆さん馴染みの獣医さんにお話をうかがってみてくださいね。得する情報もあるかもしれませんよ。

 子馬たちですが、3回に分けた最後の離乳もスムーズに行われ、これといったトラブルもなく、親子それぞれで落ち着いて過ごしているようです。なお、子馬たちは今月中旬には別の放牧地に移動させて様子を見る予定です。繁殖牝馬も来年の出産に向けてのコンディション作りに入り、1歳組は育成厩舎にすっかり溶け込んでセール購買組とともに初期馴致の真最中・・・。環境が変わる中で、今後いろいろなことがあると思いますが、どの馬も寒さに負けず頑張ってほしいと思います。

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Photo_2 創傷(ケガ、キズ)を見極めよう

 今回は、創傷について少し考えてみたいと思います。

 顔、手、体、肢、蹄・・・馬に限らず、動物は様々な場所を怪我します。多くの場合、血を流すため、中には「血を見るのが苦手」という人もいるかもしれません。現場で慌てたり、あせったりすることもあるかも・・・。馬の怪我を見つけたら、すぐに獣医師に見せて治療を受け、指示に従ってその後のケアをするのが鉄則であり、決して勝手な判断で処置をしてはいけません。しかし漫然と頼りきるのでは進歩もありませんから、自分でも

 直るまで時間がかかるひどい怪我なのか

 見た目はひどそうだが、適切に処置することによって早く治る怪我なのか

など、ある程度の予測をすることは大切です。

毎度のことですが、私独自の見解で語ることを許していただくこととして、以下参考にしてもらえればと思います。

キズを観察するポイントとは

 ランダムに解説していくことにしましょう。

・まずはキズの場所に注目

 ポイントは皮膚がよく動く、伸び縮みする場所かどうかです。例えば前肢なら球節、腕節などの関節が当てはまります。馬房の中を少し歩くだけでも、傷口が刺激を受ける部分ですね。早く治すには、第一にキズの部分が速やかにつくように動かさないことが大切になりますが、関節はどうしても治りにくいです。その関節と比較すると管部や前腕では、動いてもあまり伸び縮みしないので早く治る傾向にあります。まずはどの部分にキズがあるのかをチェックしましょう。

・出血の多さで勝手な判断をしない

 皆さんご存知のとおり、体中の血管には動脈と静脈があり、それらは皮膚にも当然あります。キズの部分にたまたま動脈があって切れると、見た目よりも出血が多くなることがありますが、浅く狭いキズなら以外に問題なく治ることが多いです。逆に出血が少ない場合ですが、傷口が小さくて、外に血が出てこないことがあるので注意が必要です。皮膚の下の組織内にその血が溜まって、後で面倒なことになる場合もあります。なので、決して外見の出血量だけで状態を判断してはいけません。

・キズの深さを知る

 私たちの生活の中でも、怪我をした時に

「深そうだね、病院行って縫ったほうがいいんじゃない?」

なんて会話すること・・あると思います。馬の場合も一緒で、深いキズ、浅いキズ・・・判断の仕方は似ていると思います。皮膚の表面だけのキズか、皮膚の下の組織まで達するキズか、それを通り越して骨まで見えるキズか・・・判断が難しい場面も多いと思うので、獣医師に見てもらいながら観察して覚えるのがいいと思います。

・見える部分だけが怪我ではない

 先ほどの出血のところと関連がありますが、衝撃が大きいわりにキズが小さいばあいがあります。外から見ると1~2cmくらいの小さなキズがあり、その周囲を注意して触って違和感(例えば、水を含んだゴム風船を触ったような弾力のある感触、泡を触るような感触)があるときは要注意です。何らかの強い衝撃で内部の組織まで損傷を負っている可能性が高いです。このような時は、単にキズの表面に消毒薬を塗って包帯するだけでは治らず、場合によっては穴を開けて抜き通しするなどして、洗浄が必要なケースかもしれません。傷のある部分は、人でも馬でも触られると痛いのは共通なこと・・・蹴られないように十分注意してキズの周囲の様子を詳細に観察しましょう。獣医師に治療してもらったあとは、その後に気をつけなければならないケアの方法をよく聞いておきましょう。

・キズが広がる向きをよく見る

 向き、と言われてもなかなかピンと来ないかもしれませんね。先ほど、たとえ1~2cmの小さなキズであっても損傷は周囲に及ぶといいましたが、その損傷が傷口を中心として上下左右どの方向に広がっているかで、治るスピードが変わってくるという話です。キズができると、それを修復しようとする体の反応が起こります。皆さんがよく聞く血液の中の成分で白血球がありますよね。細菌などの有害物質と戦うやつです。その後は血小板の働きなどで傷口を修復しようとするわけですが、その時、全力で戦った白血球の残骸が膿となって外に排出されます。この膿は速やかに外に排出されるべきで、もし傷口が下向きに開いていれば、重力も手伝って自然と外に出ますが、上向きだと出るに出られず、ポケットのように残骸が溜まりやすくなるため修復が遅れます。獣医師はその状況を判断し、下向きに膿が排出されるように処置をするでしょうから、よく観察してみましょう。

・汚れ具合はどうか

 例えば、障害飛越などで馬がバランスを崩し、腕節の部分を強打する場合がありますよね。多くの場合、傷口から砂などの異物が混入するため、修復に時間がかかることが多いです。キズは綺麗なほど治りやすい傾向があり、例えば刃物のようなものでスパッと切れたようなキズは、汚れていなければ治りは早いです。傷口からの異物の混入がないかよく観察しましょう。

当てはまる条件が重なるほど

 いろいろ並べてみましたが、上手く伝わったでしょうか?少し難しかったかな?当てはまる項目が重なるほど治りが悪くなる可能性が高いと考えてください。たとえば、

「傷口は小さいが、中に異物が溜まっているようで、損傷も大きく、傷口が上向きだから、治るのに少し時間がかかるかな・・・」なんていう風にね。

事前に知識として持っておくと、見てもらうときに、伝えるべきことが的確になってきます。獣医さんの処置を見ながら、どうしてそうしているのかの意味を理解しやすくなります。そしてあなたが適切なケアをすることで、愛馬の怪我も早く治るかもしれませんね・・・。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-08-01

JRA日高育成牧場のあしはらです

暑さと長雨

 8月になりました。今年の北海道は場所にもよりますが6月は天気も良く、雨が少ない日が続きました。このまま暑い夏かと思いきや7月は曇りや霧雨の日が多かったですね。そしてここにきて異常な暑さ・・・体が参っちゃいます。一方、西日本に目を向けてみると、梅雨の時期から災害級の豪雨のニュースを聞くことが多かったですね・・・。そして8月は35度以上の猛暑が続くようです。このようにここ数年、偏った気候の年が目立ちますが、北海道では5月の暑さと少雨の影響で、また九州方面は相次ぐ長雨により農作物にも影響が出ているようです。

 関連があるかは別として、北海道の牧草の収穫は、昨年に比較して、今年は早めに進んだようですね。少し待って、収穫量を多くしたい、でも待ったせいで雨に当たると後悔するなんていう、微妙なところがあるものですが、気候が不安定な中、このような判断はとても難しくて、これからの経験が大事になってくるかもしれません。台風のニュースも例年に比べてあまり聞かない気もしますが、油断禁物ですよね。日頃からできる範囲での備えをしておくのが無難でしょう。

 さて市場は、セレクト、セレクションまで終わりました。両市場とも昨年に負けず劣らず盛況でした。セレクトセールは例年どおりに高額の取引馬が続出し、記録的な売り上げでした。またセレクションセールも売却率、額ともに好調でした。JRAも事前の下見を実施するなどして、予定どおりの頭数を購買することができました。なお、セレクトの当歳については、下見の時間帯に興味のある産駒を中心に見せていただきました。

 また、毎年盛り上がりを見せる馬フェスタも天候に恵まれ、多くのお客様を迎えてこちらも盛り上がりました。馬上結婚式では例年どおり2組のカップルが選ばれて実施されました。その中の1組は、ご両親もこの浦河の地で馬上結婚式を行ったとのことで、会場のお客様を感動させていました。そして子供たちによるジョッキーベイビーズですが、こちらも緊迫感のあるレースが繰り広げられました。

Photo_3  子馬たちはいよいよ離乳の季節をむかえることになります。今年は8月から9月にかけて3回に分けて実施する予定です。1歳馬は、すでに育成エリアに引越しを完了。セレクト、セレクション入厩組との共同生活が始まりました。サマーセールが終われば、いよいよ馴致が開始となります。

若手職員研修

 さて、今年は20代後半のJRA若手職員(入会5年目)が生産地研修で日高育成牧場にやってきました。ようこそ日高へ・・・なんてのん気に出迎える予定でしたが、日高の生産と育成に関する講習会を実施してほしいと言われたので、急ピッチでスライドを仕上げて講義を実施しました。久しぶりに大勢の前で講義をしたので緊張しました。一般のお客様ではなく、競馬の専門家相手でしたので・・・(汗)。普段の業務が事務所や競馬場での執務中心の職員にとっては、種付、妊娠、出産、育成の現場を見たり、話を聞いたりする機会は限られているということで、できるだけ興味を持って聞いていただけるように頑張りました!妊娠から離乳までの約17ヶ月間について、コンパクトにまとめて話すことにしたのですが、時間帯も19時30分スタートと遅かったこともあり、旅の疲れのある研修生相手に上手くできるか心配したものの、有意義な講義(自己満足?)ができました。翌日には懇親会も行われ、地元牧場の青年部の方も交えての意見交換会にもなり、充実の2日間となったようです。将来の競馬を支える、立場の異なる人が交流する様子を見るのはいいものですね。今後もこんな機会が沢山あるといいなと感じました。皆さんも機会があれば、是非同じような経験をしてもらいたいです。その際は、将来の競馬について大いに語り合ってください!

脈をとる

 以前にも触れたことのある話題ですが、脈の取り方に関して、あらためて簡単にですが触れてみたいと思います。

 みなさん、体育の時間や健康チェックのときなどに、手首の手のひら側やや外に指を当てながら脈拍数を計った経験があると思います。人だと、一般的には65~75回/分くらいの人が多いのではないでしょうか。陸上などスポーツをやっている人だと40回/分くらいの人もいるかもしれません。個人差があって面白いですよね。また韓国の時代劇などを見たことのある方ならピンと来るかもしれませんが、ドラマの中で、医師が病気の王様や妊娠の可能性がある女性の手首の脈を取る場面がよく出てきます。脈を取りながら、感じる拍動の強さ、血液が流れるさらさら、ザラザラというような微かに指に伝わる感触から、病気の種類や妊娠の有無を言い当てる・・・。「本当にわかるのかな?ドラマだし・・・」と大いに疑いたくなるのですが、後で調べてみると、本当に脈の強さや打ち方、感じ方で診断をしていたようです。

 実は馬でも似たような診断が今でも使われていて、よく行うのが、馬の球節の裏側に指をあてて「指動脈」と呼ばれる部分の拍動をみるもの・・・。

Photo_6 たとえば若馬でも競走馬でも、蹄の炎症が原因で跛行することがあると思うのですが、そのとき指動脈を触ってみると、正常時と比較して拍動を強く感じ取ることができます。日常の馬の管理の中で、脚部を触って状態を確認する作業は多くの場合ルーチンとして行われていると思うのですが、例えば蹄が熱っぽいとき、球節から下が腫れているときなどに(くれぐれも蹴られないように十分注意しながら!)是非脈を取ってみてほしいです。最初のうちはわかりにくいと思うので、毎日取ってみるのがいいでしょう。次第に感覚がつかめるはずです。また、いろいろな馬の脈をとって、違いを感じ取るのもいいでしょう。

 身近に脈を取れる部分は他にもあります。心拍数は聴診器を使い胸の部分に当てないと聞くことができないと思っている方・・・以外に多いと思います。人に触られることに慣れていない、顔を触られるのを極端に嫌がる馬では少し難しい(こちらも十分に注意して!)と思いますが、馬の顎の部分で脈を感じ取れるところがあります。

Photo_5  写真を見ていただければと思います。やや強めに押すように指を当てると感じる場所があるはず・・・。時計を見ながら心拍数を計ることができますよ。私たちが手首で心拍を取るのと同じような気持ちでやってみてください。

装蹄師や獣医師と話をしながら

 跛行の診断は獣医師や装蹄師に任せるべきですが、自分なりに何らかの異常を感じとれるようになったうえで、装蹄師や獣医師に相談すると、いろいろな面で理解を深めやすくなると思います。蹄に原因があるようなら、装蹄師さんによる削蹄などの処置でよくなることもありますし、触っただけでは原因がわからないときは、獣医さんが指動脈の状態を確認した上で、適切な方法で診断してくれるかもしれません。こういったことは、お互いに話ししながら原因を探ることで早期解決につながります。

そしてプラスα

 今回のように、獣医師や装蹄師と話をする機会ができたら、日頃疑問に思っていることを直接聞いてみるといいと思います。例えば、

「先生、診察のときに肢を触るけど、どこをどんな風に触っているんですか?」

などと、聞いてみるとか・・・。優しい先生なら、いろいろ説明しながら、例えば関節の曲げ方とか、屈腱部の触り方を実践してくれるかもしれませんよね。

「競走馬と育成途中の馬では、骨折するところは微妙に違うものなの?」

なんて質問すれば、指差ししながら骨折する部分の説明をしてくれるかもしれません。

 常にプラスαを狙っていきましょう。もちろん病気のことだけにこだわらないで、日常管理に関する素朴な疑問でもいいと思いますよ。

 あなたの気持ちしだいでいろいろ得することが増えるでしょうね・・・・。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-07-04

JRA日高育成牧場のあしはらです

セール、シンポジウムそして馬フェス

 7月になり、北海道の一番よい季節になってきました。今月は行事が沢山あります。

 前半ですが、市場関係では、九州、八戸がすでに終了しましたが、セレクト、セレクションと続けて実施されます。私は例年どおり、セレクトの1歳、当歳市場とセレクションセールに行く予定です。またセレクトとセレクションの間になりますが、生産地シンポジウムも開催されます。生産地疾病等に関する調査研究については以前もご紹介しました。日高地区に関わる獣医師が協力し、3年単位で実施しているものですが、今年はその3年の節目となる年に当たり、研究成果の報告が行われるということで、どんな話を聞けるのか楽しみにしているところです。そして、月末には浦河馬フェスタが実施されますよ。こちらも毎年恒例のイベントですが、馬上結婚式やジョッキーベイビーズの地区予選など、日高ならではの行事が盛りだくさんです。夏休み期間中でもありますし、遠くにいらっしゃる方でも、足を伸ばしてみるのもいいと思います。

 1歳、当歳ですが、穏やかな天候の中、みんなそれぞれ元気に過ごしています。

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Photo_3 当歳では、早生まれが200kgを越え、1歳では半分以上が400kgを越えて大人っぽくなってきましたね。それぞれ、順調に成長しています。そんな当歳、1歳たちと身近に触れ合える恒例の見学バスツアーですが、今年も開催中です。JRAホームページ内の日高育成牧場のコーナーを検索していただくと詳細が載っています。季節により実施するイベントも異なりますので、事前に確認をお願いします。そして、どうぞお気軽にご参加ください。お待ちしております。

Photo_2 昨日まで大丈夫だったのに・・・

 さて、今回は「当番」にスポットを当ててみることにします。学校なら、掃除当番とか、日直当番とかありますよね・・・ん?今はもう、そんな呼び方ではないのかな?そんな「当番」について、皆さんはどう思っているのでしょうね。

 馬取扱いの仕事をしている現場では、「当番」という言葉が頻繁に飛び交い、皆さんが実際に勤務するようになると、交代で役割が与えられるかもしれません。たとえば、「飼いつけ当番」なんていうのが一番初めに思い浮かぶかもしれませんが、他にも調教監視当番といって、競馬場やトレセン、育成場など調教を行うところでタイム計測をしたり、事故の対応をしたりするものがあります。また、深夜早朝に起こるアクシデントなどに対応する早出当番、出産の季節には分娩が近くなると交代で監視する当番、他では例えば獣医の場合だと、競馬開催当番と言って、競馬の前日や当日に病気になって出走できない馬に対応する当番もありますし、検疫当番では、トレセンでは入厩するときにいくつかの条件があって、例えば指定の予防注射と指定の期間内に投与しているかとか、体のどこかに異常がないかをチェックする当番もあります。いずれの場合においても、重要な業務であり、競馬、厩舎、牧場関係者は100%に近い万全の体制で準備をして、様々な当番をこなしながら馬を管理しています。とは言っても、そこは馬という生き物を管理するわけですから、「絶対」とか「完璧」はなく、前日の夜に突然調子が悪くなる馬が出たり、イベント当日の朝に思わぬアクシデントに見舞われたり・・・なんてこともあるわけです。で、「昨日まで大丈夫だったのに・・・なんで今日になって・・・」なんてせりふも出てくるのですが・・・。

どんなことが起こる可能性があるか想定してみる

 漫然と当番をやっていても進歩がありません。上手くいかないことが続けば苦痛になることも・・・。なので、どんな馬の何に関する当番を引き受けたら、どんなアクシデントが起こりうるか、事前に頭に入れておくことが大切ですね。そうすれば、毎日の馬との生活の中で、何をしておくことが大事かわかってくるはずです。そして苦痛だった当番も普通にできるようになるでしょう。

 では、どんなことに気を配ればいいのかですが・・・。

一番大切なことは「厩舎、馬房を常にきれいにしておく」です。

 なんだ、そんな単純なこと?・・・しっかりマニュアルを作って覚えて仕事をするものじゃないの?・・・と思うでしょう?でもこれが一番大切!

 私は現場の獣医のときに取り消し当番というのをよくやりました。レースの直前に病気や事故で出走できない可能性がある馬の診断をするというものですが、ある時、厩務員に呼ばれて右前の球節が腫れているということで駆けつけたことがありました。確かに診ると言われた部分に小さな傷があって、腫れて痛がっていたので、発熱があり、感染して化膿しているケースと診断して、予定のレースを取りやめるようにアドバイスしました。一連の手続きと治療が終わり、あらためて馬房の中をよく調べてみました。すると、比較的新しいと思われる馬が蹴って穴があいた跡があり、その近くに突起物があったのです。あくまでも推測に過ぎませんが、その突起物に引っかかって、怪我をして軽い感染を起こしたものと私は考えました。事前に馬の最終チェックをするときに、馬だけでなく、馬房の中の様子をよく観察していれば、もしかすると防げたことだったかもしれません。馬房の出入り口や通路、厩舎の出入り口にも、ついつい、いろいろな道具を置いてしまいますが、何かの拍子で蹴ったり、引っかかったりする原因にもなりかねません。釘や金属物などが落ちていて踏んでしまうと、蹄を痛める可能性もあります。

 どうでしょう。「馬房を常にきれいにしておく」ということを考えるだけで、周囲を見渡しながら、そのときにやらなければならないことが沢山思い浮かんでくる・・・。このようなことは、皆さんが経験を積むことで良い馬の管理につながっていくものなんでしょうね。

経験から想定してみる

 病気、事故といっても、数え切れないほどいろいろなケースがありますが、レースの直前やセールの直前に「よく起こる」病気、アクシデントというのがあると思います。いくら優秀な人でも、すべてを覚えることは不可能です。でも、こんなときに、起こる確率の高いことってどんなことだろうと、たえず疑問を持ちながら、一つ一つ知識として積み上げていけば、効率的に覚えることができると思います。これらに関する知識は、何度も言いますが、それまで培った経験から身につくことが多いと私は思います。どんなに小さな経験でも、粗末にしないで、頭の中に入れる、私のように覚えるのが苦手な人は、必要に応じてメモを取って整理しておくと、将来の宝ものになると思いますよ。当番は何かとストレスを感じやすい業務ですが、日頃の努力の積み重ねと、ほんのちょっとのコツで克服できます。そんなことを伝えたかったです・・・。

 どうか、みなさんもいろいろな経験を積んで宝物を増やしていってください。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-06-06

JRA日高育成牧場のあしはらです

生産地研修・品評会・栄養に関する講習会

 北海道トレーニングセールも無事に終了し、令和元年となって早くも6月に入りました。時の流れは本当に早く感じます。この時期は出産、種付けも一段落で、育成馬もいないことから、なんとなくオフシーズンと思われがちですが、様々な団体や他部署から研修生が入れ替わり訪れる時期であり、またセールを控えた1歳馬の品評会が行われる季節でもあります。また、来年の育成に向けての管理計画や研究のまとめ、新規計画の作成なども実施しています。

 先月末の話になりますが、栄養に関する講習会が浦河で開催され、私も足を運んで聞いてきました。多くの牧場関係者が熱心に聞き入っていましたよ。講習後の質疑応答も活発に行われ、普段から馬や放牧場管理に苦労している、いろいろ手を加えたいと模索している様子がうかがえました。皆さんも、もし身近な地域で類似の研修会や講習会があれば、是非参加して知識を増やすといいと思います。

Photo  一方、競馬に目を向けてみると、6.15から北海道シリーズ函館開催が始まりますね。皆さんの所属している牧場、また個人的に関心のある牧場で生産された2歳馬の新馬戦はすでに始まっています。私としては日高育成牧場出身の2歳馬にも注目したいところ・・・。

 こうして考えると、いろいろな面で気分を変える季節といってもいいですね。緊張の4月、試練の5月、そして飛躍の6月・・・なんて、勝手な表現ですが、いずれにしても、皆さんにとって、どうかいい季節になってほしいと心から願うばかりです・・・。

 そして、当歳馬と1歳馬も、それぞれのペースですくすくと成長しています。放牧地の緑も鮮やかになってきて、美味しい草を食べながら日に日に成長し、たくましくなっているように見えます。原稿を書いているこの日は、子馬の成育が順調かどうかの馬体検査が行われていました。

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以前にも書いたことがありますが、生後3~4ヶ月の頃は、何かと体と脚部の成長のバランスを崩しやすい時期でもあり、特に肢勢や蹄の形に注意を払いたいところ・・・。この日も何頭か、蹄の形などから、肢勢に注意ながら観察すべき子馬が見られましたね・・・。皆さんも、日頃から愛馬を様々な角度から見て、できる範囲のケアをしてあげてください。

 最近は天候の変化も極端で、時折起こる自然災害に苦しめられることも多いですが、今年は穏やかに過ごせるよう願いたいものです。

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Photo_4 自分の体温

 今回は体温について考えてみたいと思います。「え~、体温?つまらないなあ・・・」なんて言わずにちょっと読んでみてください・・・。

 皆さんは馬の体温が何度かご存知でしょうか?

 その前に自分の体温が何度か・・・知っていますか?

 私は36.0度くらいだったと思いますが、正直しばらく計ったことがないです。

お恥ずかしい限りで・・・。

 人の体温の場合は37度を境に、熱があるかないかを判断することが多いですが、

 「まあ、測ったことはあまりないけど、36度5分くらいかな」

 「俺は低めだから、35度台だよ」

 と勝手に決めつけている人が多いのでは・・・。

 確かに個人差は大きいと思います。熱がある場合、38度以上になるとふらふらする人もいれば、意外と39度でも平気な顔をしている人もいるでしょう。でも40度になると、さすがに頭が燃えるように熱くなって、立っていられなくなることが多いはず・・・。ここで考えてほしいのですが、普段の体温が35.4度の人と36.6度の人がいたとして、どちらも39度の発熱を認めたとき、同じように考えていいのかということです。単純に1度以上の差があるので、やはり35.4度の人をより注意して観察する必要がありますよね。たった1度と軽く考える人もいるかもしれませんが、例えば、お風呂の温度を測ってみると実感できると思いますよ。「41度・・・温いかな」、「42度・・・丁度いいかな」、「43度・・・熱くて入れないよ」・・・1度違うだけで熱かったり温かったりするもので、実は1度の差は意外と大きいのです。なので、日頃の体温が35.4度の人にとっては、37度丁度くらいでも十分「発熱している」といえるかもしれません。

実際の馬の体温を知ろう

 馬の体温は一般的に37.8度から38.2度が平熱とされていますね。診察するときに、馬の場合も体温をまずとってもらいますが、おおむねこの範囲で収まっていることが多いです。また、年を取った馬は体温が低く、若馬では高めなんて言われることが多いですが、これも意外といい加減です。以前、日高育成牧場の繁殖牝馬の体温表を眺めたことがあって、一番低い馬で37.4度、高い馬で38.1度と実に0.7度の差がありました。ある時、日常の平均体温が37.4度の馬が38.0度だった日があったんです。その日は、少し元気なくて、食欲もありませんでした。まあ、1日様子をみただけで元気にはなりましたが、おそらく38.0度でもこの馬にとっては、「発熱」の状態だったのでしょうね。馬は移動するときに、長距離であれば必ず馬運車に乗りますが、降りた直後の体温は高めに出ますね。そんなときも、普段のその馬の体温を把握したうえで、しっかりチェックすべきでしょう。鞍をつけて、人がまたがり、指示どおりに走るということは、馬にとっては人が思う以上にストレスに感じることかもしれません。また、いろいろな要素が重なって、騎乗後に発熱する馬もいると思います。馬のちょっとした仕草の変化に十分に気を配ってくださいね。

なぜ発熱しているのか

 当たり前の話ですが、長く世話をしていればしているほど、馬のわずかな変化に敏感になってくるものです。発熱したら、自分なりの推測をたてて、何が原因なのかを探ってみましょう。正確な診断は獣医さんに任せるとして、普段から体を触る、歩かせるなどして、自分なりに異常を探してみましょう。以前ここで書いたことがありますが、甘い先入観で診断を誤るケースもあります。いつもは窓から顔を出して元気にしているのに、馬房の中でじっとしている・・・。そんな姿を見かけたら、まずは発熱を疑って、いろいろな角度から観察する習慣をつけましょう。

 当たり前で基本的なことをちゃんとやる・・・大事なことですよね。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-05-13

JRA日高育成牧場のあしはらです

今年の桜の満開は・・・

 5月は北海道の春。桜が咲く季節です・・・なんて、内地の人が聞くと「何言ってんの?」なんて思われそうですが、日高ではゴールデンウィーク後半が桜の季節なんです。寒い年だと、ゴールデンウィークが終わってからなんてことも・・・。花見といえばジンギスカンが定番で、場所によってはライトアップで夜桜見物なんてイベントもあります。まあ、結構寒かったりするのですが・・・。私は北海道出身なので、それが当たり前で、滋賀で就職して、はじめて本州の桜を目の当たりにして驚いたのが4月初めに桜が咲いていること。そしてエゾヤマザクラを見慣れている私にとっては、ソメイヨシノ、葉桜でない、鮮やかな桜を見たのが衝撃的でした。そもそも「葉桜」という言葉があることをこのときに知ったかもしれません。写真は今年の浦河の桜並木です。(満開時期に不在にしていたのが残念・・・)

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 そんな中で、子馬たちは、緑も濃くなってきた放牧地をお母さんと一緒に楽しく駆け回っています。1歳たちは、早生まれでは150kgくらいにまで成長して、体も一回り大きくなったように見えます。また北海道トレーニングセールに向けて調整している育成馬たちですが、それぞれのペースにあわせながらの調教が続いています。また、来年の出産に向けて、種付けも計画どおりに進んでいる様子。人も馬も、それぞれの春を感じながらすごしているようです。

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浦河港に豪華客船が

 ゴールデンウィーク明けの5月10日、浦河港に豪華客船が就航しました。船の名前は「ぱしふぃっく びーなす」号。神戸・横浜が出発地で、反時計回りに太平洋、日本海と日本一周するクルーズ船の最初の就航が浦河ということで、この春ちょっとした話題となる出来事でした。実は私もこの船にスタッフとして乗船し、各寄港地の魅力を事前にお伝えするという企画の中で、浦河の馬の生産に関する紹介をするということで、馬の講義をしてきました。今回は45分と時間が限られているということで、馬の種付けから出産、離乳までの過程をわかりやすくコンパクトにまとめてお話してきました。上手く伝わったかどうかはわかりませんが、皆さん真剣に聞いてくれた様子で、良かったのかなと思います。このような機会は頻繁にあるわけではないので、とても貴重な体験でしたが、各種イベントの中で馬の話をすることは、日高育成牧場が協力すべき重要な仕事と認識していますので、皆さんの周りでも何か馬に関する講演などの要望がありましたら、ご一報いただければと思います。よろしくお願いします。

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Photo_5 馬はニンジンが好き?

 さて、今回は食べ物の話です。 

 日常生活の中で、例えば馬の絵を見る、写真を見る、テレビの動物関連の番組を見る・・・なんてこと・・・よくあると思います。だって、このブログを読んでくれている人は、無類の馬好きですから、そういう機会はより多くあると想像します。で、今、馬の絵、写真、漫画など何でもいいので、頭の中で思い浮かべてもらいたいのですが、例えば食べるシーンだと、馬が美味しそうに何を食べているか・・・おそらく多くの人は、草やニンジンを食べている姿を思い浮かべるのではないでしょうか?

「馬はニンジンが大好きだよね」

これ、常識!なんて思う人・・・多いと思います。

 こんな書き出しだと、次に否定が入りそうなものですが、いえいえ、私も馬はニンジンが大好きだと思いますよ。

 でも、何で馬といえば「ニンジン」なんでしょうね。

諸説あり

 私が聞いた話では、馬は甘いものや甘い香りがするものが好きで、例えばおなかがすいていそうな場面などで手懐けるために、たまたまニンジンを使うことが多かったから・・・と聞いたことがあります。馴致のときなど、ハミを装着するときに口を上に上げて嫌がる場合をよく見ますが、ニンジンを食べさせて、その隙に装着するのを見たことがあります。色、硬さ、味、使いやすさ・・・様々な理由で多く使うようになったかもしれません。そんな感じで、馬といえばニンジンというイメージがついたのかもしれませんね。確認したことはありませんが、ニンジンが嫌いな馬もいるかもしれません。しかしながら、確実に甘いものを嫌う馬はいないと予想します。

 私が競走馬の治療を現場でやっていた頃・・・

 「先生、食欲がないんだよね・・・何かいい薬を飲ませてほしいんだけれど・・・」

 と診療依頼を受けることがしばしばありました。大体の薬は味がないか、苦いかですから、なかなか難しいですが、食欲増進作用のある薬はいくつかあったので、それに甘いものを混ぜたり、甘い香りのする薬を入れたりして与えたものでした。薬を飲ませるときは、鼻からチューブを入れて流し込むのが普通ですが、食欲を掻き立てるには、舌に絡ませたほうが効果ありのこともあるんですよ。なので、小型のポンプに薬を入れて、強制的に口の中に押し込むこともありました。歯茎を出して、いかにも「美味しくない~」という顔をするのが面白かったりするのですが、もちろん、食欲を取り戻して競馬で頑張ってほしいと思いながら治療をしていましたので決して悪気はありません。勘違いしないでくださいね。

疑問と工夫

 では、ニンジン以外で好きなものはあるんでしょうかね?例えばバナナ。大好きです。バクバク食べます。栄養もバッチリですしね。リンゴも大好きですよ。大きいままだと消化に悪いので切ってあげたほうがいいのですが、ガリッガリといい音立てて美味しそうに食べます。今ではあまり見なくなりましたが、角砂糖もガリガリと美味しそうに食べます。まあ、甘いものは何でも好きなのかもしれません。

 競走馬は競馬に応じたエネルギー摂取が必要ですが、厳しい調教を重ねていると、体調によっては食欲が落ちる場合が出てきます。食べなければ翌日の調教に影響が出るだろうし、食べなかったから、翌日の調教強度を落とすとなれば、競馬の成績に影響してくる。管理する人は、何とか食べさせたい、栄養のあるものを摂取してもらいたい・・・そんな考えから、ニンジン以外の好きなものを探すこととなるのです。バナナがいいらしいよ、リンゴもいいかも・・・なんて話が広まってね。

 昔、面白いことをやっている場面に遭遇しました。普通、馬の飼葉桶って一つですよね。あるとき、プランターのような容器を馬房の中に5つくらい並べて、1種類ずつ食べ物を入れて与えていたんです。面倒くさいことするなあ、としかそのときは思わなかったのですが、人に食べ物の好き嫌いがあるように、馬にも好き嫌いがあるんですね。で、その馬が好きな食べ物を探って、必要な栄養をたえず取れるようにしようと試みていたわけです。実に面白いですよね。

 単純な食べ物の話・・・と受け取られてしまいそうですが、実は、当たり前にやっていることでも、ちょっと疑問を感じたら、みんなに提案して、アイデアを出しあいながらいろいろなことにチャレンジしてみるべき・・・そんなことを食べ物の話を例にあげて言ってみたかったのです。これは馬に乗っているときも当てはまることがあると思います。最初は教えられたとおりに基本をやって、そして技術が上がってきたところで、自分なりに工夫してみるのです。時と場合によってはそういうことが大切になってくると思います。

 あらゆることに疑問を持ち、場合によっては何か工夫してみる・・・。皆さんの技術を伸ばすために必要なことだと思いますよ。

今回もお付き合いありがとうございました。

2019-04-16

JRA日高育成牧場のあしはらです

ブリーズアップセールに出発

 昨年のセール後にやってきた育成馬たち・・・。馴致、調教などいろいろなステップを踏みながら成長し、4月10日の展示会も終了し、セール開催地に向けて出発の日を迎えることとなりました。そして、この原稿がアップされる頃は、住み慣れた日高をあとにして、中山競馬場に到着し最後の調整を行っていると思います。順調に調教メニューを消化していった馬、何度か調子を崩して足踏みした馬・・・いろいろでしたが、全体的には例年に比較して順調だったのかなという印象です。4月23日のブリーズアップセールで購買された育成馬は、各所属厩舎および関係牧場に移動して調教を積み、6月の新馬デビュー戦に向かっていくことになります。私もテレビ観戦にとどまらず、機会を作って、育成馬のレースを見に行くことができればなあ、と思っています。

 残念ながら今回のセールに出場できなかった育成馬ですが、その中の何頭かは5月の北海道トレーニングセールに向かいます。ブログ投稿のタイミングにもよりますが、その状況については、また報告したいと思います。

分娩もまもなく終了です

 分娩も今月末予定日の1頭を残して無事に終了しました。親子たちは、それぞれの成長に合わせた広さの放牧地を駆け回り、元気に過ごしています。また、原稿を書いているこの日は、のんびりと過ごす1歳馬を写真におさめることができました。

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Photo_2  最初に産まれた子馬はすでに100kgをこえており、かなり大きくなりしっかりしてきましたよ。草も青々してくるこの頃になると、栄養のある草を食べた母親の乳を飲むことで、子馬たちは急激に成長することになります。過去に何度か言ったことがあるかもしれませんが、成長の過程では、バランスがとても大切です。上半身の成長が先行すれば下肢に負担をかけますし、逆の場合は下肢に適度な負担がかからず、骨や筋肉、靭帯の成長や強度に影響が出てきます。特に、生まれて3ヶ月前後が一番変化の激しいときなので、より注意深く観察しなければなりませんね。その成長の様子については、今後も報告していきたいと思います。

気分を変えて

 若いときは予想もしなかったことですが、年をとって50を過ぎて痛感することが2つあります。一つは字が見づらくなってきたなあ、ということ。そして、もう一つが、あちこち体が痛くなってきたなあ、運動不足だよなあ・・・ということです。私は根っからの怠け者なので、運動不足解消のためにスポーツをするとか、朝ランニングをするとか、ストレッチをするとか考えません・・・。だめですよね。でも多くの人は、

 「どこかのスポーツクラブの会員になって、トレーニングで汗を流してみよう」

 「水泳なら若いときに得意だったし、久々に泳いでみようかな」

なんて、気分を変えて体を動かしてみる、いつもと違う筋肉を動かしてみるなどと考えることでしょうね。また、普段からスポーツをしている人で、思わぬ故障をしたりして、休養を余儀なくされたときに、筋肉の衰えや、心配機能の低下を恐れて、そのときに合ったトレーニング方法を考えて体を動かすことでしょう。そんな努力が実を結んで、回復したときには、そう苦労することもなく、体も元に戻り、いい思いをしたりするでしょう。

 馬の場合も、一種の陸上選手と言えますから、故障とは背中合わせのところがあります。私は過去に、「馬の温泉」「リハビリセンター」とも称される福島県いわき市の競走馬総合研究所常磐支所というところで勤務した経験があります。そのような施設は、日本では限られたところにしかなく、様々な方法で馬がリハビリを実施していることは、あまり知られていないかもしれません。

 今回はごく簡単ですが、トレッドミルとプールを取り上げて書いてみたいと思います。

トレッドミル

写真はトレッドミルと言う器具を使ってトレーニングを実施している育成馬です。

Photo_3  ひと昔前なら、高価で設置も面倒で、使い勝手もあまりよくなかったものですが、近年ではとても使いやすく、牧場単位で所有できるほど身近なものになってきました。その利点はいろいろ・・・。第一は効率的に運動ができることでしょうか。少ない人数で、大きく場所をとることもなく、決まった時間の中で行うことができます。その前段階として、準備運動をするための施設であるウォーキングマシーンも普及しており、これらを組み合わせることでバラエティに富んだ調教をすることができます。私がJRAに入って間もない頃のトレッドミルはどちらかと言うと研究目的で使用することが多かった・・・。例えば、馬の走行フォームを記録して分析するとか、馬の吐く息や血液を走行中に採取して能力分析するとか、内視鏡を装着したまま走らせて呼吸機能の検査をするとかです。またある程度の馴致訓練も必要でした。今では、育成調教の過程の中で、調教進度遅れの育成馬に使用したり、全馬トレッドミル調教の日を設けて、運動強度の判定をしたりと、いろいろな使われ方がされるようになってきました。今後は至るところで、そのような光景を目にすることになるかもしれませんね。

 プール

 馬が泳ぐ姿など、想像したこともない、見たこともない・・・と言う人、きっと多いですよね。馬用プールはJRAでは東西のトレーニング・センターや福島県いわき市にある馬のリハビリセンターにあり、調教やリハビリに利用されています。一番の利点は、足元に不安がある場合でも、泳ぐことで心肺機能を低下させないことでしょうか。水の中に入ると水圧がかかるので、呼吸するときに力が要ります。そして、泳ぐためには一所懸命前後の肢を動かすので、筋肉トレーニングにもなりますね。

 見ていると面白いですよ。人を同じで泳ぎの上手い馬、下手な馬がいます。下手なパターンで一番多いのは、あせって、前足だけ動かして、後ろ足を動かすのを忘れること。そうすると、お尻がだんだん沈んでいって、「助けてくれー!」という状況になる。そんなときは、急いで出口まで引っ張ります。上手な馬は、お尻が水面に見えて、ぷりぷり動かしている姿を観察できます。トレセンでの見学は条件があり難しいことが多いですが、福島県いわきでの見学は比較的自由ですので、HPなどで調べて行ってみるのもいいでしょうね。屋外プールなので、実施期間は概ね5月中旬から10月上旬です。寒いと水に入れないところは人と一緒です。

 ちなみに私は25mも泳げません、あしからず。

 写真はプール調教の様子と温泉で疲れを癒しているところです。

Photo_4 今後の活用は皆さん次第!

 今回はリハビリ法の単純な紹介・・・というよりは、これらの方法をどう発展させていくかは皆さんが考えていくことだ・・・そういう思いで書いてみました。皆さんの中にもリハビリに興味のある人がいると思います。多方面から情報を仕入れて勉強してみてください。今後どんな風に使われるようになっていくのか・・・それは皆さんが是非考えていってくださいね。使っていくうちに思いがけない発見もあるかもしれませんよ!

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-03-19

JRA日高育成牧場のあしはらです

春は近くに

 3月はJRAの定期人事異動。今年も新しい仲間が加わりました。

 「思ったより暖かいですね。」

第一声がみなさん、そんな感じだったのですが、確かに2月の終わりから、まとまった雪も降らずに、3月下旬くらいの陽気が続いている日高です。育成馬の調教も順調で、1歳、繁殖牝馬、当歳馬もそれぞれ、元気いっぱいです。

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 そうは言っても、桜が咲くのはまだまだ先で、風はまだまだ冷たいのですが、日差しは春がもう近くまで来ていると感じられるほどになってきました。

スプリングキャンプ

 毎年恒例になっている研修ですが、今年も全国の獣医系大学から学生がやってきました。目的は、馬の出産、繁殖牝馬、当歳馬の飼養管理の勉強をすることです。そして、その中には、馬取扱いの仕事を目指す皆さんと同じように、馬に関係する仕事について興味を持つ学生もいます。私もこの春の時期になると、学生で将来どんな仕事についたらいいのかと、悩んでいたことを思い出します。学生にとって不安なことは、そう、単純に、

 仕事するってどんな感じなのかな

 続けていけるのかな

そんな感じですよね。私もそうでした。無責任なことはあまり言えないのですが、どんな仕事でもやってみないとわからないです。そして

 意外と合っているな

 ちょっとつらいかな

 まるで合わないな

いろいろ感じながら仕事を始めると思います。まるで合わないなと言う人は、次の仕事を探すのがいいのかもしれないですけど、自分が一大決心をして始めた仕事なんですから、少々つらくても、自分の決断を信じて粘って続けてほしいですよね。私も正直、今の仕事が合っていたかと言えば、そうでもなかった(もう年なので過去形になってしまう・・・笑)と答えてしまうことが多いです。でもそれは、振り返ってみてすべてが決して無駄なことではなかったと思っています。楽しいこともうれしいことも沢山ありました。どんな仕事でも、いいことも悪いこともいろいろあって過ごすことに変わりないですから、まずは自分で選んだ仕事を好きになる努力をしてみればいいのです。あまり難しく考えすぎないことですね・・・。

耳を澄まして

 大学を卒業して、もう30年近く経ちましたので、出身大学の今の状況についてはほとんどわかりませんが、私が通っていた頃・・・6年間の学生生活の中で、4年目から「研究室」に所属していました。私が4年生のときは、6年生が3人、5年生が3人、4年生が5人、先生が3人で、事務官が1人の計15名が所属していました。3人の先生にはそれぞれ自分の部屋があって、そのほかに実験室、実習室、コンピューター室、暗室、顕微鏡室などがあって、部屋の入り口に自分の名前を書いたマグネットが用意されており、各部屋に行ってこもるときは、壁に書いてある行き先地図に自分のマグネットを移動させる・・・なんてことをやっていました。当たり前の話ですが、登校するときは靴を履いてきますが、研究室から室間移動するときはスリッパを履いて歩いていました。私の部屋の机は入り口に一番近いところだったので、パタパタと廊下の足音が良く聞こえる場所でした。

 研究室生活にも慣れてきたころ・・・。

 お昼休みは、大抵、生協でA・B・Cランチを食べるか、少し離れた食堂に行くか、大勢でジンギスカンを食べに行っていました。ある日、一人で早々に昼食を終え、他のメンバーがランチに行って、部屋にいたときのことです。昼食を終えた順番に人が帰ってくるのですが、ドアを開ける前に

 「あ、○○が帰ってきた。」「3人帰ってきた」など、足音を聞いただけで、誰かを当てるようになっていることに気づいたのです。それは、履物の種類が違って微妙に音が違うことだったり、人によって歩くリズムが異なったりすることだったりすると思うのですが、普段から意識して聞き分けようとしたものではなく、毎日のことで自然と耳に入っていたんですね。

目だけに頼らない

 馬は皆さんご存知のように、常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)と大きく分けて3つの歩法がありますが、それぞれ4拍子、2拍子、3拍子とリズムも違います。例えば、毎日同じ馬の調教をつける、見る場合や、多くの馬を見ながら比較するなど、そんな機会を持つことが多い人ならば、目だけでなく耳も使ってみてはどうでしょうか。

 例えば、右前肢に痛みを感じている馬がいたとしましょう。程度は様々で一概には言えませんが、右前肢をつく時に痛みを感じて頭が少し上がる、痛くない左前肢をつく時間が長くなり深く肢をつけるため、頭が少し下がる動作をするかもしれません。運動している場所が、固いところならはっきりと着くときの音が違い、柔らかい場所なら、サクッサクッした音の高さやリズムが違って聞こえるかもしれません。そのほかにも、馬の息遣いが変わってくることもあるかもしれないし、前後の肢を時々ぶつけながら走る馬もいて、その当たる音の程度が違うことに気づくかもしれません。硬い地面での常歩でも元気のいいときと、元気のないときで、蹄音が異なるかもしれません。百聞は一見にしかずですが、聞いてこそわかることもあるので大事にしてほしいです。

 くだらないと笑われそうですが、何もないのに、馬が警戒して耳をたてて遠くを見つめることがあります。何を見ているのかなあ、何か聞こえるのかなあ、といつも知りたくてたまらなくなります。いらいらしているのか、何が気に食わないのか、ものすごい音をたてて、壁をバーン!と突然蹴るのもいますよね。まあ、わからないことだらけですけど、人間と同じで、馬も感情豊かな動物ですから、たくさんコミュニケーションをとって、多くのことを知り合える仲になりたいものです。皆さんはどんな馬に出会って、これからどんな風に過ごすのでしょうね。

 4月になれば、あちらこちらの学校、会社で様々な思いを秘めた人の足音が聞こえてきます・・・。

 今回もお付き合いありがとうございました。

2019-02-26

JRA日高育成牧場のあしはらです

 寒い毎日が続く北海道。日高育成牧場は北海道の南端、襟裳岬に近い浦河町にありますが、浦河市街から山側に約10km入ったところにあるため、気象庁が発表する浦河町の天気予報と少し違うことが多いです。晴れや曇りの予報でも雪だったり、暖かくて雨の予報でも雪だったり、最低気温がマイナス5度と発表されてもマイナス10度だったりといった感じでしょうか。また育成牧場の事務所と、毎日朝の打ち合わせをしている業務詰所は、車で5分程度の距離があるため、事務所では雨が降っているのに、詰所では雪ということも珍しくないです。しかしながら、原稿を書いているこの日は、天気も良く、澄んだ青空、遠く日高山脈もきれいに見えて、寒さに強い放牧中の馬たちも、気持ちよく草を食んだり、うとうと眠っていたりしていました。育成馬の調教も、坂路を中心に強い調教も行われるようになって来ましたし、繁殖牝馬の経過もそれぞれ順調で、今月22日に1頭目が誕生しましたよ。

Photo 近隣の牧場でも、親子の姿も見られるようになって来ましたね。日も長くなり、暖かさも増して、あわただしくなる毎日もすぐそこという感じです。

展示会

 2月上旬は展示会の季節で、私も行ける範囲で見学してきました。皆さん、いろいろな目的で来られていると思うのですが、たとえば生産牧場や馬主の皆さんは、昨年の競走成績はどうだったのだろうかとか、新種牡馬はどんな交配がベストなだろうかとか、いろいろな思いをめぐらせて見ているものと想像しました。皆さんの今年の注目の2歳デビュー、今年1歳、そして新規の種牡馬はなんでしょうか?私もいろいろ気になる馬はいますが・・・。

 牧場の関係者の方とお話しする上で、種牡馬について勉強しておくことは大切だと思います。まずは、どの繁殖牝馬にどの種牡馬をつけるのかなどの考えを自分なりに整理して、牧場側の種付けの方針はどうなっているのかを聞いてみる・・・そんな会話をかわすことで、知識の幅を広げることができるでしょう。自分が頭で描いていることと同じだな、基本的な考え方が違うなと思ったり、知らないことがわかったりすると思います。一連の展示会は終了しましたが、見学については、場合によっては招待制だったり、事前連絡が必要だったり、関係者以外立ち入り禁止だったりすることがあるので、相手のご迷惑にならないようによく調べて出かけてくださいね。

私の毛色の楽しみ方

 私がJRAに入会した平成2年は、あの芦毛のアイドル「オグリキャップ」の現役最後の年でした。あれから時も経ちましたので、オグリと聞いてもピンと来ない人も増えたかもしれませんね。あの頃は今より競馬が盛り上がっていたので、全盛期を過ぎたオグリキャップが有馬記念で復活優勝したときは、日本中が盛り上がりました。後のクロフネなどの活躍もあってか、芦毛は一種のブームにもなりました。

 さて、毛色についてはこれまでも触れてきましたが、今回は私独自の楽しみ方を紹介してみましょう。偉そうに語るつもりはありません(笑)。皆さんが私に負けない楽しみ方を持っていることは十分承知しております。ですので、「今までとは違う視点で楽しんでみては・・・」そんなタッチで書いてみたいと思います。

理科は苦手、遺伝子は苦手

 毛色の話になると、どうしても避けられないのが遺伝の話ですね。「メンデルの法則」なんて言葉・・・聞いたことありますか?簡単に言えば、お父さんとお母さんから一つずつ遺伝子をもらって、その結果、どっちが優性か劣性かで性質が決まるというやつです。血液型が一番有名でわかりやすいですよね。たとえばAとA、またはAとOならAが優性でA型、OとOは劣性どうしでO型というやつですね。せっかく毛色を楽しむのですから、遺伝の話は完全には避けられないですが、難しいところはできるだけ抜いて話ができればと思います。

私は3つに分けて観察します

 馬の毛色はたくさんありますが、サラブレッドは8色とされていますね。

     鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、栗毛、栃栗毛、芦毛、白毛

 です。この中で例えば鹿毛の場合ですが・・・一口に鹿毛と言ってもいろいろいて、

 「あれが鹿毛?黒鹿毛だよね」「あんなに黒いのに青鹿毛か。青毛みたいだよね」

 なんとも微妙な会話が、あちこちから聞こえてくることが多いです。そういうややこしいのは、ここではやめます。後で血統の資料などで皆さん自身が確認するなどして、自分なりに楽しんで観察してみるといいと思います。私の場合、まず、3つの部分に分けて観察することにしています。それは、

     長い毛 短い毛 肢の色

です。「長い毛」とは、前髪、たてがみ、尾の毛などのことです。「短い毛」はそれ以外の全身の毛のことで、「肢の色」は前が腕節、後ろは飛節以下の色のことです。実は3つそれぞれが、

     黒くなるか黒くならないか

が、遺伝と関係していて、その組み合わせで毛色が決まってきます。

まずは栗毛から

 まずは簡単なところから、栗毛の馬を見てみましょうか。

たてがみや尾など「長い毛」は黒いですか・・・黒くないですね。

次に体の「短い毛」の色はどうですか・・・黒くないですね。

最後に「肢の色」はどうですか・・・黒くないですね・・・ということで栗毛となります。

 この栗毛は、先ほど少しお話した人間の血液型のO型とよく似ていますよ。人間の場合AB型とO型からはO型は生まれないことはご存知ですよね?必ず優性のAかBをもらうので、A型かB型になります。それと同じように、ここで言う「黒くなる」という性質は優性。なので、先ほど分けた3つのどこかに一つでも「黒くなる」要素を引き継ぐと栗毛ではなくなるのです。

 そこで、こんな法則が生まれます。

                栗毛と栗毛の子は必ず栗毛

 栗毛は黒くならない遺伝子しかもっていないのでこの法則になるわけです。

 「私の好きな馬は栗毛だけど、親の毛色は何かな?」

 と思ったらこの法則を思い出して、両親の血統、写真を見てみましょう。

 「栗毛と栗毛の子だったんだ。そりゃ、栗毛が生まれるに決まっているよな」

 「親はどっちも鹿毛なのに栗毛の子か。黒くならない性質を両方からもらったんだな」

 などと考えることができるでしょう。

 栗毛は栗毛でも長い髪と肢が黒くなくややこげ茶系の体の色をした栃栗毛と言うのもいますから、そうそう単純ではないんですけどね。まあ、ここでは難しい話はしないことにしていますので・・・。

青毛は遺伝の話は「なし」で観察しよう

 そういうわけで、鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛の場合は、栗毛とは間逆に、黒くなる遺伝子が微妙に関係してそれぞれの毛色になるわけですが、栗毛を理解したところで次は間逆の全身真っ黒の青毛について知りたいところですね。前にも言ったことがありますが、青毛はサラブレッドではかなり少ない。「これはどう見ても青毛でしょう」と思って資料を見ても、青鹿毛のことが多いです。青毛は「全身真っ黒」なので、もし青毛でないならどこかに黒くないところがあり、そこを探すのがポイントとなるので、そこを皆さん自身で観察してみてください。意地悪ですが答えは書きません。そして、その場所を覚えたときに、青毛と青鹿毛の区別ができるようになっているはずです。また、鹿毛は体が黒くない、黒鹿毛は少し黒い、青鹿毛は大部分が黒い、青毛は全身真っ黒と単純に覚えればいいのですが、微妙なのもたくさんいますから、毛色の鑑別資料と照らし合わせて観察すれば面白いと思います。

芦毛は変化を楽しもう

 そして芦毛。今まで「黒くなる」とか「黒くならない」とか語ってきましたが、芦毛は、その法則に左右されることなく、「芦毛になる」という遺伝子が一つでも入れば前の毛色が何であろうと芦毛になります。なので、芦毛でない親どうしの組み合わせから芦毛が生まれることはありません。で、こんな法則が生まれます。

                 芦毛の親はどちらかが必ず芦毛

 お母さんが芦毛で白いのに、子供が黒い、茶色いなんていう風景はよく目にしますが、この場合、子供が親の優性の芦毛の遺伝子持たずに生まれるパターンですね。そして楽しみたいのが、何色からの芦毛かですよね。芦毛の当歳は生まれたときは原色のままで、少しずつ変化していくので、かなり面白いです。ちなみに、日本には数頭しかいない白毛。これは芦毛との大きな違いは、生まれたときから白だということ。他の動物でも見られますが突然変異とも言われており、これまで生まれた数が少なく、完全には謎が解明されていないようなので、ここでは語らないことにしますね。

 かなり雑な説明になってしまいましたが、人によって毛色の楽しみ方は違うと思います。また、専門家から見ると少し間違っていると取られる部分もあるのですが、私の話は参考程度として、正確な情報を確かめてくださいね。とにかく、皆さん独自の毛色の楽しみ方をしていただければと思います。

 今回もお付き合いありがとうございました。